Chapter2
「西崎〜古典の課題、職員室持ってってよ」
教室に入った俺に、友達と机を向かい合わせて話し込んでいたのを途中で遮って、教卓を指差して言った。
指の先には、山のように積み重なった課題たち。
伊原美咲。幼稚園からずっと一緒の腐れ縁。
昔はすぐ泣いて俺のあとを追い掛けてたのに、今は容姿端麗、品行方正、なのに優等生ぽくなくて面倒見もよく、男女問わず人気者。
美咲の周りには必ず人だかりがあって、俺とはまるで正反対。生きる世界がこんなにも違いすぎるようになったのは、いつからだっただろうか。
周りから孤立するようになった俺に接してくる奴は、学校中で美咲ぐらいだろう。
「……何で俺が」
「遅刻してきたから〜。まさかこんな重いの、あたしに持たせる気じゃないでしょうね?」
他の奴だったらムカつくのに、美咲が言うと、無意識に黙ってしまう。
「…………」
「よろしくね、『智くん』♪」
俺のことを『智くん』と呼ぶのは、美咲だけだ。中学のときに『西崎』と呼ぶようになったが、何か頼むときだけ『智くん』に戻るのだ。
今や問題児扱いもせずに近づいてくるのは美咲だけだ。どこか心地よいと感じてるのも、また事実だった。
「ちょっ……美咲〜!あんた西崎なんかと関わるのやめなって」
「何で?普通だよ」
「だって、あいつ何か恐いじゃん。すぐキレるし〜」
「そっかな?…西崎!じゃ、頼んだからね〜」
その無神経な奔放さが、人を引き付ける魅力なのだろうか。
この気楽さが、無性に羨ましかった。




