Chapter12
ついたのは、保健室。
俺が鍵を取ってきて開ける間、加野はおとなしく待っていた。
「………警戒、しないの?」
普通の女なら、夜の保健室に連れ込まれそうになったら少しは警戒するだろう。
べつにやましいことをするわけでもないが、不思議に思って聞いてみた。
「へ、何で?」
「だって……夜の保健室とか、フツー焦るだろ」
「何で?西崎くんだもん」
………俺は男としても見られてないのか。
まぁ、そういう純なとこがいいんだけど。
「………入って」
加野を椅子に座らせると、棚を探ってガーゼや消毒液を出した。
黙ってピンセットで消毒液をつけた綿をはさみ、ガーゼで押さえながら傷口につけた。
新しいガーゼを紙テープで固定すると、加野は感心したように息をはいた。
「すっごい手際いい!何で?」
「……何となく」
「あたし絶対ムリだぁ〜……すごいなぁ!」
小さい頃から傷の手当は見よう見真似で覚えてきた。だけど使うあてもなく今までしたことなかったが、加野には反射的にやってしまった。
「………屋上、行こう」
あんまり加野が褒めるから、無性に照れてしまって、わざと乱暴に加野の手をひっぱった。
屋上に着くと、花火は終盤なのか、連発で上げられた花火が夜の空に美しく咲き乱れていた。
「うっわぁ〜…キレー…………」
夜風も心地よく、俺は冷たいコンクリートの床に座って、りんごあめを口に入れた。
俺たちはしばらく無言で見とれていた。
加野は空に咲く花火に。
俺は花火を見る加野に。
「ねぇ西崎くん」
ふいに話し掛けられ、ずっと加野を見つめていた俺は慌てて目線をはずした。
「なに?」
「西崎くんが追試になってくれて、ラッキーだったかもね」
「え?」
「だってここ、花火もよく見えるし、風も気持ちいいし………」
無邪気に笑う加野の顔を、花火の光が艶やかに照らす。
俺は黙って加野の横に立ち、フェンスにもたれかかった。
「………俺、好きなんだ」
「花火が?たしかに綺麗だよね〜」
「ちがくて、加野が」
沈黙に耐え切れないように、花火が何発も打ち上げられる。
加野は目を見開いて俺を見つめている。
俺はそらすこともなく、加野の瞳に映る自分をずっと見ていた。
「俺、加野が好きだ」
もう一度言う。
何回でも言ってやる。
「西ざ……」
口を開きかけた加野の唇を、自らのそれで覆う。
優しい、それでいて力強いキスをした。
唇を離すと、加野は微笑んで、欲しかった言葉を言った。
「………あたしも、だよ」
「……えっ…マジで?」
こっくり頷き、照れたように笑って、ゆっくり静かに目を閉じた。
もう一度キスを落とすと、花火が二人を明るく照らし出した。
「…………甘い」
俺らの初キスは、夜風に香る花火の匂いと、俺の舐めていたりんごあめの味だった。




