一から八まで
自分の歩んできたちっぽけな経験や、傷ついた痛みの記憶。大層なものは何もないけれど、誰かの道標になればと願う少女と少年の静かな対話を描いたお話です。
一から八までぜんぶ教えてあげる。
それがわたしの言葉だというのが半ば信じられなかった。
一ぐらいじゃ教えてあげられないこともないのだけど。八までいけるかしら?九、十までは流石に無理な気がする。
わたしは少年を前に黙りこくっていた。
少年はただ、まっすぐな瞳でわたしを見つめている。
風がふたりの間を吹き抜け、小さな砂埃が舞った。
教えられることなんて、本当はそれほど多くない。
生き方とか、正しい選択とか、大層なものは何ひとつ。
けれど、わたしが転んで痛かった場所なら教えられる。
あそこは滑りやすいから気をつけてと、伝えることはできる。
だから八まで。わたしが歩いてきた、ちっぽけな歩幅の分だけ。
「……ねえ、聞いてる?」
誤魔化すように声を出すと、少年は静かに頷いた。
その素直さが少しだけ眩しくて、わたしは小さく息を吐く。
さあ、どこから話そうか。
視線が交錯する。数秒の後、少年は、眩しそうに眼を細めながら静かに口をひらいた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
誰かの歩んだ小さな足跡や、転んで傷ついた記憶が、別の誰かにとっての「道標」になることがあります。完璧な答えや正しい生き方は教えられなくても、「ここは痛かったから気をつけて」と伝えることならできる——そんな二人の静かな対話から、このお話を書き始めました。
八までの言葉が、読者の皆様の心にもそっと寄り添うものとなれば幸いです




