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寝てたらいつの間にこんなに時間が経ってた
木々に囲まれた静寂の中、精霊たちが淡い光を放ちながら、蛍のように夜の空を舞っている。見上げれば、この世界特有の青き月が、すべてを慈しむように静かに照らしていた。
焚き火を囲み、先生と仲間たちが笑い合う姿を、少し離れた場所から眺めながら、僕はこの世界の果実を口に運んだ。甘さと酸味が混じった、不思議な味だった。
「こっちに来いよ」
仲間の一人が手を振る。
今日は、この世界に留まる最後の日だ。だから、僕は迷わず彼らのもとへ向かった。焚き火の温かさ、屈託のない笑い声、精霊の囁き。すべてが美しく、楽しく、そして胸が痛むほどに優しかった。
火を見つめていると、自然と過去の自分が蘇る。
劇的な不幸があったわけじゃない。ただ、鏡に映る自分という存在が、どうしても許せなかった。日々の思考、選ぶ行動、吐き出す言葉。そのどれもが中途半端で、どこか他人事で、後悔という名の泥を積み重ねていくだけの人生。
周囲には恵まれていた。友人たちは優しく、両親は僕を大切に思ってくれていた。けれど、その優しさに応えられない自分から目を逸らすため、僕は薄っぺらな嘘を重ね、器用に自分を偽り続けていた。「空っぽ」な自分に、吐き気がしていた。
そんなある日、僕は異世界召喚に巻き込まれた。
期待しなかったと言えば嘘になる。「ここでなら、自分を変えられるかもしれない」という、甘い幻想を抱いた。
けれど現実は残酷だった。共に召喚された者たちは、世界を揺るがすほどの強大な「神の加護」を与えられていた。対して僕に与えられたのは、申し訳程度の、ささやかな力だけ。結局、世界が変わっても、僕は僕のままだった。
この世界の人々も、共に召喚された仲間たちも、皆とても優しかった。
一般兵程度の価値しかない僕を、彼らは決して見捨てなかった。食事を分け、背中を預け、僕を一人の戦友として扱い続けた。
それが、何よりも辛かった。
何もできない。何の役にも立てない。そんな僕を必死に支えてくれる彼らの眩しさが、僕を追い詰める。彼らの高潔で、強く、真っ直ぐな人柄。困った人には迷わず手を差し伸べるその光。しかし、僕は変われなかった。その温度差が、ひねくれた僕の心をこれでもかと抉った。
やがて、彼らは世界を救った。そして、僕もその「一員」として数えられた。
何もしていない。
何もできていない。
ただ、そこにいただけなのに。
称賛の言葉が向けられるたび、内側で僕自身が醜く叫んだ。その叫び声に、心が潰されそうになっていた。
そんな日々の中、僕らの前に現れたのが、後に「先生」と呼ぶことになる存在だった。
「元の世界に、何が何でも帰りたいと思う者がいたら、術を教え、世界を渡るのを手伝おう」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が強く脈打った。
召喚されたあの日と同じ「変われるかもしれない」という感覚。けれどそれは希望というより、すべてを捨てて逃げ出したいという切実な願いだった。
「僕は、帰りたい」
そう言ったのは、僕だけだった。
他の人たちは、この世界で大切なものを見つけ、それを守るために残ると決めた。声を上げたのは、何一つ掴み取れなかった僕だけだった。
先生のもとには、元の世界へ帰ることを願う先輩が六人いた。皆、揺るぎない強い意志を持っていた。僕は、自分の選択がただの逃避ではないかと何度も自問自答した。それでも、刻一刻と別れの時は迫っていた。
修行は過酷を極めた。精神を削り、魔力を練る日々。何度も投げ出したくなった。それでも僕は耐えた。この世界から、そして自分自身から逃げるために。
修行の合間に先生が語ってくれた、渡り歩いてきた世界の物語は、奇妙で、不思議で、僕の理解を遥かに超えていた。けれどその物語だけが、唯一、僕の凍りついた心を動かした。
そして、最初の別れが訪れた。
「世界を渡る。別れは済ませておきなさい」
今生の別れだと分かっていた。かつて僕を気にかけてくれた仲間たちとの時間は、時を経てようやく穏やかな思い出へと変わっていた。かつては目を逸らすことしかできなかった彼らの顔を、今は真っ直ぐに見つめることができる。悲しかったが、決めたのは僕自身だ。強がりを盾に、僕は最初の一歩を踏み出した。
それから五つの世界を越えた。
「五つ体験したら卒業だ」という先生の言葉通り、この世界が、共に過ごせる最後の場所となった。
先輩たちは皆それぞれの場所へ卒業し、今度は僕に五人の後輩ができていた。
そこで先生は、僕にとっては七度目となる言葉をに告げた。
「君たちは生きている。希望を持ち、夢を見て、語り合えている。
....世界を渡る者は、長い時の果てに死をも超越する。だが、その先で心が朽ち、夢を失い、ただの『物』としてあり続ける者も多い。だから、希望を持ち続けなさい。夢を語り続けなさい。それこそが、私たちが生きている証なのだから」
悲しさを帯びたその声は、今も僕の胸に鮮明に刻まれている。
別れの朝。先生に呼ばれ、二人で崖へ向かった。
気をつけるべき世界の話。僕のような欠落を抱えた人間を、どうか助けてほしいという願い。そして、後輩たちと過ごした日々。
次元の術を組み上げる時、僕はありったけの声を絞り出した。
「タケヤマ先生、ありがとうございました!」
光が溢れ、世界が遠ざかっていく。
そして、僕はまた歩き出した。
正直に言えば、かつてあれほど渇望した「帰る理由」なんて、もうどこにもなかったのかもしれない。
けれど、かつて家族と囲んだ温かい食卓の記憶、召喚された仲間たちとの青臭い会話、そして先輩や後輩、先生たちと旅した景色のすべてが、今の僕の新しい理由になっていた。
僕はまだ、帰るべき世界を探している。




