ワーヌルの雷鳥 ナチェド
前回の設定ミスって同じ日に2本出てしまった
それは、雷の身体を持つ鳥であった。
世界のすべてが強い電気を帯び、空も大地も雲も海も、ありとあらゆる場所から雷が走る世界。
光は常に瞬き、音は衝撃として伝わり、静寂という概念すら存在しない。
電気に愛されたその世界では、雷は災厄ではなく、循環であり、生命そのものだった。
暗雲の只中を飛び、稲妻を喰らいながら生きる鳥の群れが存在した。
雷は彼らの血であり、翼であり、呼吸であった。
雷の中で生まれ、雷の中で成長し、雷と共に死んでいく。
それが彼らにとっての自然であり、疑うことのない世界の在り方だった。
その群れの中に、ナチェドと呼ばれる鳥がいた。
他の鳥よりも強い雷を宿し、より遠くを見渡す眼を持つ存在。
雷鳴轟く空の流れを読み、嵐の中心を見極め、群れを導く者だった。
だが、ある時、世界が裂けた。
稲妻よりも速く、予兆もなく現れた裂け目は、光を引き延ばし、雷鳴を歪め、群れ全体を呑み込んだ。
次の瞬間、彼らは落ちていた。
辿り着いた先は、電気が存在できない世界だった。
電気的な繋がりは断たれ、雷は生まれず、光はなく、闇だけが支配していた。
世界は沈黙しており、裂け目は瞬く間に塞がれ、世界と世界の繋がりも完全に切断された。
群れの鳥たちは理解した。
ここにいれば、未来はない。
かつて彼らは渡り鳥だった。
あらゆる世界を渡り、あらゆる法則に適応する変幻自在の肉体を持っていた存在。
しかし、雷という最適な法則の世界に定住したことで、その適応能力は固定され、雷の中でしか生きられない鳥へと変わっていた。
それでも、彼らは特別だった。
ナチェドは鳴いた。
存在を、この世界に合わせるために。
それは記憶にも無いかつての渡り鳥の使っていた本能の声。
群れは応えるように鳴いたが、力の衰えた鳥たちは、自身の分解速度に耐えきれず、闇の中へと消えていった。
存在を世界に合わせても、この世界の法則は彼らの成り立ちを拒絶していた。
ナチェドは、残された群れを率いた。
自分だけでなく、仲間を生かすために。
再び世界を渡ることを選んだ。
弱った仲間を雷の翼で支え、自らの雷を分け与えながら暗闇を抜け、微かな世界の繋がりを辿って飛び続けた。
辿り着く世界ごとに雷を喰らい、少しずつ適応を取り戻していく。
世界によって雷の形は違った。
光として降る雷、音として響く雷、物質変換の過程として存在する雷。
それでも彼らは喰らい、変わり、羽ばたいた。
かつての渡り鳥とは違う。
雷そのものとして世界に適応しながら、世界を渡る存在へと変わっていった。
その鳥は、今も飛び続けている。
かつての渡り鳥が求めた様に理想郷を求めて。
自分達が雷として繁栄できる世界を求めて。
そして、帰るべき世界を求めて。
ナチェドの雷鳴のような鳴き声は、あらゆる世界に刻まれていく。
帰還を求める勇者の耳に残り、
自らの居場所を探す粘液生命の記憶に沈み、
始まりの世界から存在し、帰るべき世界を失った超越概念の中に、微かな痕跡として宿る。
雷鳥は語らない。
ただ、飛び続ける。
帰るべき世界が、どこかに存在すると信じて。




