○◇⬡○■▲○人 ⬢○■◇▲の場合
異世界の人の表現として記号を採用しました。
少しでも楽しんでください
私はなぜ、こんなことをしているのか。
自分自身に、何度も問い続けている。
答えは、とうに分かっている。
それでも、この問いをやめることができない。
問い続けなければ、私はきっと立ち止まってしまうからだ。
私は、異世界調査隊の末端として、世界○◇⬡○■▲○に生まれた。
我が世界は、高度に発展した理論と技術によって、世界と世界を繋ぐ術を手に入れていた。
世界間航行理論は完成され、文明は安定し、資源も循環し、誰もがこの世界の永続性を疑っていなかった。
だが、私たちは慢心していた。
もし、いつかこの世界に住めなくなったときのために。
その“もしも”に備える保険として、異世界を移住先候補として調査する計画が立ち上げられた。
私はその調査隊の一員に選ばれたに過ぎない。英雄でも、指導者でもない。
ただ命令を受け、観測し、記録する末端の存在だった。
調査対象となった異世界は、長年の観測によって「安全」と判断されていた。
物理法則は我々の世界とほぼ同一。
世界構造も安定しており、移住に支障はない――そう信じられていた。
その判断が、どれほど愚かだったかを、私たちは身をもって知ることになる。
我が世界では、神という存在を軽視していた。
神とは世界を管理するために配置された高次存在であり、感情も意思もなく、
ただ与えられた役割を淡々と果たす“装置”のようなものだと考えられていた。
だが、それは致命的な誤解だった。
私たちが渡った先の世界を管理する神は、私たちの存在を感知すると、そう告げた。
「気に入らない」と。
その瞬間、あれほど安定していた世界間の繋がりは、
まるで一本の糸を断ち切られたかのように崩壊した。
帰路は消え、座標は乱れ、通信は途絶えた。
私たちは、孤立した。
それだけでは終わらなかった。
神は、眷属を遣わし、私たち調査隊の殲滅を選択したのだ。
逃げた。
生き延びるために、誇りも使命も捨てて、ただ逃げ続けた。
不安定に揺らぐ世界間の繋がり辿り、母界の技術を用いて、
不完全で、明らかに危険な異世界転移装置に縋った。
その代償として、調査隊の半数が命を落とした。
だが、辿り着いた先もまた、地獄だった。
その異世界は、私たちの知る世界とは、あらゆる点で異なっていた。
物理法則が、根本から違っていたのだ。
呼吸は成立せず、体内の循環は崩壊し、全ての団員が到着した瞬間に命を落とした。
身体が世界に拒絶され、内側から分解されていく。
私はそれを、ただ見ていることしかできなかった。
そして、私自身も死んだ。
――だが、次の瞬間、私は目を覚ました。
その世界では、死と生の境界が、驚くほど曖昧だった。
死者が翌日には蘇り、生きていた存在が理由もなく消滅する。
因果も時間も、私たちの理解を拒む形で存在していた。
そして、なぜか私だけが、その法則に適応していた。
私は嘆き、苦しんだ。
遺品すら残らなかった仲間たちの死を、
もう会えないかもしれない、故郷に残した家族の顔を、何度も思い出した。
だから私は、決意した。
必ず、帰る。
死んだ仲間のために。
そして、もういないかもしれない家族のために。
そのために、私は歩き出した。
まず、この世界を知ることから始めた。
元の世界と異なるのは、物理法則だけではなかった。
魔術法則すら、根本から違っていた。
この世界では、光は質量を持つ。
そして、私たちの世界で光が担っていた役割は、別の未知の存在が代行していた。
質量を持つもの同士は反発し合い、音は波ではなく、微細な粒子として伝播する。
魔力は重力を持ち、粘性を伴った実体として存在していた。
それは世界同士を繋ぐ媒介であり、生命のエネルギー源でもあった。
生命の在り方もまた、常識から逸脱していた。
死者が生者に生者が死者になり、金属の体を持ち星を喰らい尽くす獣、肉体を持たず魂だけで稼働し続ける機械が歩いき、エネルギー吸収より消費の方が多いにもかかわらず、生き続ける存在の集合体である束。
星ですら異常だった。
存在が不確定な星。距離によって重力が反転する星。
すべてを吸い込む暗き恒星。
光り輝く虚空が、あらゆる物を吸い寄せる。
理解できなかった。
それでも、私は理解しようとした。
やがて私は知る。
世界の繋がりは永続的なものではなく、
一定の周期で変化し、切り替わっていることを。
そしてついに、存在そのものを「概念」として世界に溶け渡らせる術に辿り着いた。
肉体でも魂でもない、世界に拒絶されない在り方。
異なる法則を持つ世界と世界を渡るための、唯一の方法。
今日も私は、世界を渡る。
次の世界が、私の故郷であることを願いながら。
問いは、まだ終わらない。
だが、それでも、私は歩き続ける。




