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第六話 水色の髪に隠した涙


 長い廊下の先に、ようやく図書室の扉を見つけた。


「ディア、図書室に行きたいの?」


 リリィが小首をかしげて尋ねる。


「うん! 図書室なら、お金を増やす方法が載ってる本があるかもしれないじゃない!」


 ディアは目を輝かせた。


「いやいや、魔法学園の図書室って魔術教本とか召喚術とか、重〜い本ばかりだと思うよ!? ディアが行きたいなら……まぁ、私も付いていこうかな」


 二人が図書室に入ると、想像通りその空間は広大だった。

 長机が規則正しく並び、生徒たちは各々好きな席で静かに本を読んでいる。


 その中でひときわ目を引く少女がいた。

 水色の長髪。透き通るような横顔。机の上には魔術教本が山のように積まれている。

 黙々とページをめくる姿は、まさにクールビューティーそのものだった。


 —— サラ・エバルス。学年順位2位の少女だ。


 ディアは学年順位で毎回自分の名前のすぐ下に並ぶサラの名を、ずっと見ていた。

 話したことは一度もない。それでも、気になって仕方なかった。


「サラ様って、なんだか物思いにふけってる感じね」


 ディアが囁く。


「同じ学年なのに、綺麗で大人っぽくて……ちょっと近寄りがたいよね」


 リリィも小声で返した。


「でも! 友達になりたいのよ!」

「私もよ。……じゃ、話しかけに行きますか!」


 二人が近づくと、サラが顔を上げた。

 スカートの両端をつまみ、優雅なお辞儀をして微笑む。


「ディア様、リリィ様。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう、サラ様」


 ディアは一瞬だけぎこちなくなる。


「すみません……私、庶民だから貴族式の挨拶には疎くて」

「気にしないで。挨拶は難しくないわ。スカートの両端を掴んで、お辞儀するだけよ」

「なるほど……では改めまして!」


 ディアは少し照れながら、同じようにスカートをつまんでお辞儀をした。


「ご機嫌よう、サラ様」

「ふふ、上手よ」

「えへへ……ありがとうございます!」


 話してみると、サラは想像よりずっと気さくな少女だった。

 貴族らしい気品はあるのに、堅苦しさはなく、笑うと年相応の可愛さがこぼれる。


「サラ様、ずっと順位表で名前を見てて……気になってました!」

「首席のあなたに言われると、ちょっとむず痒いわね。でも……」


 サラは少し目線をそらして微笑んだ。


「私も、あなたを意識してたの。……お互い同じ夢があるのでしょう?」

「え!? サラ様も宮廷魔導師を目指してるの?」

「えぇ。そのために、魔術教本も召喚術も猛勉強中なのよ」


 その時、サラの頬がわずかに赤くなる。

 しかしすぐに、どこか影が差したように表情が揺れた。


「サラ様、どうかなさいました?」

「初めて話す方に言うのは気が引けるのだけど……実は—— 両親から、許嫁と結婚するよう言われているの」

「許嫁!? い、いるんですね……そりゃ貴族様ですもんね……」

 

 ディアは動揺しつつも聞き返す。

 サラは苦笑しながら続けた。


「魔術師になりたいと言ったら、危険な仕事だからと反対されてしまってね。『高い身分の家に嫁いで、女の子らしく生きなさい』って。でも私、反発して家を出ちゃって」

「喧嘩したままって、つらいですよね」

「そうなの。ずっと後悔してた。でもね—— 」


 サラの瞳にまた光が戻る。


「学年二位まで成績を上げたら、両親が喜んでくれて。今日、魔法学園まで会いに来てくれるんだって。やっと仲直りできるの」

「うわぁ……よかったですね!」

「ありがとう。……本当に、嬉しくて」


 その瞬間だった。


 図書室の扉が勢いよく開いた。

 マークランド先生が血相を変えて駆け込んでくる。


「サラ・エバルス……! 動揺しているだろうが、落ち着いて聞いてほしい。ご両親が—— 亡くなられた」

「……嘘」


 サラの声が震える。


「事故現場近くの教会が発見し、埋葬したそうだ。……そして教会から手紙が学園へ届いた」


 サラの視界がぐらりと揺れて膝から崩れ落ちた。

 机の上の魔術教本の山が、かすかに震えで揺れる。

 先生から渡された手紙を、サラは両手でぎゅっと握りしめた。

 封はまだ切られていない。

 もう開くことも、返事を書くこともできない。

 

「ごめんなさい……お父様、お母様……」


 か細い声は本棚の迷宮に吸い込まれ、誰にも届かない。

 その姿を、ディアとリリィは言葉もなく見つめることしかできなかった。




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