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第五話 結界バイトで肉を増やせぇ!



 学園入学後、家族との手紙のやり取りで学園であったことを話している。

 友達ができたこと。

 学園での成績で一位を保持していること。

 家族からの返信の手紙を商人ギルド経由で飛脚さんから受け取った。


 あの家族のことだから、弱音は吐かない。

 ただ弱音を書かないからといって、空腹が来ないわけじゃない。


 便箋の中、母の文字がポツリと綴られる。


『お兄ちゃんと妹に、お前の分まで食べさせてやりたいのに……お金がない。パンと野菜スープのみの毎日。肉なんてとても買えない』


 飾りも涙もない。

 けれど、ないという事実だけで溢れている。


 ディアは手紙を胸に当て、静かに息を吸った。


「皿に乗るものを変えるには、私が稼ぎ出すしかない」


 呟きは決意に変わる。

 決意は行動に変わる。


 バイト掲示板へ向かう足は、迷いなく早い。


 一通り目を通した掲示板の中から、希望の報酬額が叶う夜間のバイトの為に職員室へ向かう。


 たどり着いた職員室の扉を開けて、元気よく声を張った。


「マークランド先生! 結界修復のバイト、やらせてください! 私、眠らないで働きます!」


 マークランド・グレゴリア。

 30代前半、鋭い目、理想より現実を選ぶタイプ。

 左手薬指の新品の指輪。教卓の上の家族写真。


「ディア、悪いが夜間の結界修復は認められない」


 マークランドはため息まじりに、職員室の壁の規則表を指で叩いた。

 そこには赤線でこう書かれている。


『生徒の夜間魔力業務は翌日の授業集中と魔力温存を考慮し禁止』


 教師用の規則にはそんな項目はない。

 つまり--禁止されているのは生徒だけだ。


「先生たちは夜勤も任務もある。でも生徒は違う。学ぶのが仕事だ。授業で倒れられたら困る。魔力を使い切って集中を欠いた状態で講義を受けさせるわけにもいかない」

「そんな……」

「悪いが、諦めてくれ」


 沈みかけた空気を踏みつけるように、フィオが現れた。


「マーク君、ディアちゃんにやらせてみたら!」

「なっ!? フィオ先生、教師ならわかるでしょう! 結界修復は上級魔法! 生徒に務まる仕事じゃない! それに評価に傷がついたら家族が――!」

「できます、先生」


 ディアは一歩、さらに前へ出る。


「先生も家族のために働いているんですよね?私も同じです。守りたい理由があるなら、魔力で示します」


 それは理想論じゃない。

 現実的な意見だ。

 マークは言葉を飲み込んだ。


「……仕方ないですね。フィオ先生が推薦するなら」

「ありがとうございます!」


 ディアは頭を下げて、お礼を述べた。

 授業を終え、寮の部屋で準備を整えて日がまだ昇ってる内に仮眠についた。

 目を覚ますと、部屋は暗かった。



---



 内側から校門を開けて外へ出る。


「俺が生徒と二人で結界修復作業とはな」

「先生は眠らないんですか?」

「評価に繋がるからな。出世や昇給したら、家族が楽になる。寝てる場合じゃない」

「その気持ち、私も同じです」


 少しの会話。長い沈黙。

 それは気まずさじゃない。集中の呼吸だ。


 二人は魔法学園の結界に手をかざした。

 ディアは補助。マークランドは本作業---そのはずだった。


 結界光が強く光る。

 結界の壁が大きく揺らいだのを見て、マークランドは異常事態に緊張する。


「ディア!これは緊急を要する! 急いで教師寮に向かって応援を呼んできてくれ!  私は校長に報告してから、結界の魔力供給装置へ向かう!」

「先生、間に合いません。私が繋ぎます」

「無理だ! これは学園規模の結界だぞ!? 一生徒が対処できる規模じゃ---」


 魔力解放。

 奔流。純白の光。

 彼女の魔力は、量そのものが規格外なのだ。

 結界術式は見たことがないのに。

 ただ声が聞こえるに従う。

 --ー結界再構築。


 夜空の紋様が走る。

 星図のような術式。

 学園を包む守護の天蓋。


 教師陣が到着した時には、全員が言葉を失っていた。


「学園規模の魔力反応!?」

「嘘だろ、一人で結界を!?」

「伝説だぞ、これは!」


 まだ誰も、魔力に意志があるとは言わない。

 まだ誰も---知らないからだ。

 ディアの額に汗。

 だが目が笑っている。


『その気持ち、私も同じです』


 マークランドの目が、ディアの目を捉える。

 心からディアを尊敬する。



---



 翌朝。

 バイト報酬袋は重い。

 ディアは袋を撫でた。


「家族は、私が空腹にしない」


 彼女はギルド便のカウンターへ向かった。

 署名し、封蝋を押す。


「お願いします」

「かしこまりました」


 商人に渡したら、後は任せるだけだ。

 今日中に届くだろう。



---



 夜。

 家族の食卓。いつもは黒パンと野菜スープだけ。

 でも今日は違う。


 焼き鳥肉。

 ジャガイモのバター炒め。

 家族の皿が増えた。


「ディア、今日もやべぇ仕事してんだろうなぁ!」

「お姉ちゃんありがとう!お肉!」


 母の目が潤み、父は笑った。


「ディアは今日も頑張ってるんだな」


 家族はちゃんと味わいながら、ディアに感謝した。



---


 結界騒動の翌朝。

 マークランドは職員室にいた推薦人のフィオに聞いた。


「ちなみに、あの子に結界修復の実績は?」

「知らないよ! てへぺろ!」

「イラっとするわぁ〜〜〜!」


 マークの叫びが学園にこだまする。

 その声は昨日より、ほんの少し明るかった。

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