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第三話 首席魔導師、黒パンを選ぶ



 王立魔法学園首席、ディアは――今日も元気だった。


 理由は単純だ。


 ここを卒業して、宮廷魔導師になれば、家族はもう苦労しなくて良い!


 その未来を思い浮かべるだけで、背筋が伸びる。


 魔力量は史上最高。

 成績は常に一位。


 問題はただ一つ。


 --生活習慣が貧乏なままなことだ。



 昼休みの鐘が鳴る。


 生徒たちは一斉に立ち上がり、学食へ向かう。

 王立学園の学食は豪華で、全生徒無料。

 肉料理の話題に、教室が一気に華やぐ。

 ディアは、にこにこしながら席に座ったまま鞄を開けた。


 中から出てきたのは、小さな弁当箱。


 黒パン。

 以上。


「……ディア」


 声をかけてきたのはリリィだった。

 貴族の家の生まれで、面倒見がよく、少し照れ屋なお姉ちゃんタイプ。


「行かないの? 学食」

「はい! 行きません!」


 即答だった。


「なんでそんな元気に言えるの!?」


 ディアは胸を張る。


「浮いた分は、家族のために使えます!」

「学食は無料!」

「無料でも、節約した気分にはなれます!」

「気分の問題!?」


 周囲の女子たちがくすくす笑う。


「首席なのに……」

「でもなんか楽しそう」


 ディアは黒パンを半分に割った。


「夜の分も考えてます!」

「あなた寮に住んでるしょ! 寮暮らしの生徒も、無料で夜食を提供されるから!それを食べて!」


 午後の授業は魔法実技。

 教師が言う。


「ディア、模範演習だ」

「はい!」


 ディアは明るく返事をし、魔法を展開する。

 魔力制御は完璧、出力は最低限。

 それでも魔法陣は、息を呑むほど美しい。

 教師は感嘆する。


「素晴らしい」


 生徒たちは魔法の天才を目にして怯える。


「首席こわ……」

「無駄が一切ない……」


 ディアは満足そうに頷く。

 


 授業の合間の休み。

 ディアの腹が鳴った。

 ……ぐぅ。


「あ」

「ほら見なさい」


 リリィは苦笑し、ディアの手を引いた。


「今日は一緒に食べる!」

「え、でも……」

「友達を飢えさせるほど、私は薄情じゃないわ」



 学食の料理を前に、ディアは目を輝かせた。


「……すごいです!」

「今さら?」

「王立学園、家族想いの味がします!」

「絶対違う!」


 一口食べて、ディアは笑う。


「これなら、午後も頑張れます!」



 食後、ディアは少しだけ緊張した声で言った。


「……リリィ」

「なに?」

「私、貴族じゃないですし、家も裕福じゃないですが」


 一瞬、間が空く。


「でも……友達になりたいです!」


 真正面からの言葉だった。


 リリィは顔を赤くし、ため息をつく。


「……もう」

「?」

「そういうとこよ」

「?」

「明日も一緒に食べるわよ」


 ディアの顔が、ぱっと明るくなる。

 

「はい!」


 家族のために、

 未来のために、

 友達のために。


 ディアは今日も前向きだ。

 黒パンの日も、

 豪華な学食の日も。

 宮廷魔導師への道は、ちゃんと続いていると信じているから。


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