第二話 入学初日から詰められました
魔法学園は、私が今まで見たこともないほど大きく、立派な石造りの建物だった。
王国が建設した王立魔法学園は、生徒数およそ四千人を誇る大規模な学び舎だ。
同じ十五歳の子供たち――入学式へ向かう新一年生たちが、ぞろぞろと学園への道を歩いている。
その流れの中に、私も混じり、緊張を胸に抱えたまま学園の門をくぐった。
入学式は、生徒会長の挨拶から始まり、教師陣の紹介、そして校長先生の長いスピーチへと続く。
私の胸は、今にも押し潰されそうだった。
なぜなら――入学式には、試験成績首席の代表スピーチがあるからだ。
そして今年の首席は――私。
式が進み、生徒会長の声が講堂に響いた。
「次は、今年度・王立魔法学園入学試験、成績第一位による新一年生代表スピーチです。呼ばれた者は壇上へ。ディア・アルトレーンさん」
「は、はひぃ……。……はい!」
思わず変な声が出たけれど、私は生徒たちの列の間を抜け、壇上へ続く階段を上る。
(ここまで来たら、もうどうとでもなれ!)
「新一年生代表、ディア・アルトレーンです。本日は代表スピーチを任されました。よろしくお願いいたします」
そう名乗り、用意してきた原稿を読み上げる。
その最中――一年生席から、ひそひそとした声が聞こえてきた。
「……あの方、どなたですの? どこのご令嬢様?」
「いいえ、ミリア様。あの方、庶民の出身ですわ」
「ダリル様、本当ですの!? 王立魔法学園に庶民が? しかも首席!? 不正行為ではありませんの?」
「……あの方、可愛らしいですし。男性教師に色目を使った、なんてことも……」
「まあ……許せませんわ!」
そんな噂が飛び交っているとは、露ほども知らず――私はスピーチを終え、逃げるように席へ戻った。
終わったぁ……。
入学式だけで、どっと疲れるわ……。
指定されたクラスへ向かい、番号の書かれた席に座る。
一年生は全部で十クラス。
それでも一クラス百人という大人数だ。
(この中に……一人くらい、友達できるよね……?)
ディアは心の中で両腕をぶんぶん振り回し、気合を入れた。
ホームルームまで、まだ少し時間がある。
そのとき――二人の女子生徒が、私の机の前に立った。
まるで姉妹のように似た、金髪の縦ロール。
気品に満ちたご令嬢たちだ。
ミリア・ヴァロライン。
ダリル・ユーアシア。
「ディア様。あなた、下劣な真似をしてまで学園に入り込んだのでしょう? 恥ずかしくありませんの!?」
「庶民の出身ですわよね!? 魔術師とは、生まれながらの血筋で魔力が決まるもの!貴族や王族の血こそが魔術師の証! あなたが首席など……あり得ませんわ!」
……血筋が、なんなの?
魔法が得意だった。
ただ、それだけだ。
確かに私は庶民だ。
でも、筆記試験も、魔力操作試験も、魔力量測定も--必死に勉強し、鍛えた結果だ。
けれど、言い返したところで、火に油を注ぐだけ。
周囲の生徒たちは、誰も止めず、ただ静観している。
(……私、やっぱりひとりぼっちなのかな)
そう思った、その瞬間。
「――血筋が、なんですか!」
凛とした声が教室に響いた。
私の前に立ったのは、赤い長髪を揺らす、凛々しい雰囲気の少女だった。
「リリィ様! なぜ庶民を庇うんですの!?」
「ミリア様。先ほどの不正行為の話ですが。教師や学園に、確認なさいましたか?」
「……いいえ」
「では、その話はただの憶測です。そもそも、王立魔法学園の入学試験は――」
リリィは、はっきりと言い切った。
「国王陛下の名の下に、行われる国家事業です! 不正行為は、王への反逆! 発覚すれば、即刻死刑。そんな真似をする者がいると思いますか?」
教室が静まり返る。
「……それに首席とは、国王陛下に『能力を認められた』という証! つまり彼女は、私たち一年生の代表です! 尊敬こそすれ、侮辱する理由などありません!」
ミリアとダリルの顔が、みるみる青ざめていった。
「「ご無礼をお許しください!! 申し訳ありませんでした!!」」
深々と頭を下げられ、私は慌てて答える。
「き、気にしてませんから……!」
二人は小さく礼をし、席へ戻っていった。
リリィが、にっと笑う。
「疑いが晴れて、よかったですね」
「助けてくれてありがとう! この恩、絶対返すから!」
「お、恩だなんて……大げさです」
照れたようにそっぽを向く彼女を見て、私は思った。
(この子……絶対いい人だ)
そして――友達になりたいと、心から思った。




