第一話 黒パンと野菜スープと、私の夢
私の一日は、家族の誰より早く起きて朝ごはんの準備をするところから始まる。
まだ朝日も昇らないうちに、野菜を刻んで鍋に入れ、火魔法でゆっくりと煮込んだ。
「ヒート」
ボウッと炎が灯り、やがてコトコトと小気味よい音が響き始める。その音に反応して、母が眠たげな顔を出した。
「ディア。いつもありがとう。朝ごはん、私も手伝うわ」
「いいよ、お母さん。うちは貧乏なんだから、家族で助け合わなきゃ!」
「ディアは優しいわねぇ。本当に助かるわ」
続いて兄のカイル、妹のミーナ、そして父のエリオットが順番に起きてきた。
「ディア〜、また野菜スープと黒パンだけかよ〜。もっと味の濃いもんが食いたいぜぇ」
「お姉ちゃんに文句言わないの! 稼ぎの悪い父さんが悪い!」
「ウギャ!? 末っ子の純粋な言葉の棘が刺さる……!」
「お兄ちゃん! 一人で黒パン取らないでよ! 一個しかないんだから!」
「腹が減っては戦はできぬ! 仕事前なんだから体力つけないとだろ!」
「争うな! ほら、パンはこうやってちぎれば五等分だ」
わが家はお金こそないけれど、毎朝こんな調子で賑やかだ。
兄のカイル。
妹のミーナ。
母のセリア。
父のエリオット。
そして私、ディア・アルトレーン。
みんな、心の底から仲がいい。
「ディア〜、魔法学園の給食って美味いんだろ?」
「お姉ちゃん、毎日ケーキ食べられるの?」
「ふふふ。必ず宮廷魔導師になって、みんなをお腹いっぱい食べさせるからね!」
私は十五歳。
魔法が大好きで、我流で魔法を勉強してきた。
そしてついに――王立魔法学園の合格通知が届いたのだ。明日は入学式。
家族全員が少しずつお金を出し合い、やっと買えたローブと杖。
大切に、大切に準備する。
全寮制だから、今夜でしばらく家族とはお別れだ。
野菜スープに黒パンのかけらを浸しながら食べ終え、静かに就寝した。
翌朝。
ローブに袖を通し、杖を手にした私は家族に向き直った。
「必ず宮廷魔導師になって、もっと大きな家に住ませて、毎日美味しいご飯を食べさせるから! 期待してて!」
「うぅ……娘が立派に育ったよ、母さん……」
「ディア、あなたなら絶対になれるわよ」
たったそれだけの言葉なのに、胸が熱くなる。
――絶対に、この家族を幸せにする。
そう強く決意して、私は家を出た。




