第五章 皇帝の刺客
それから半年が過ぎた頃。
帝都から使者が来た。
「皇帝陛下より、伯爵様に緊急の御用あり」
だが、クレスティアナは気づいていた。
その使者の指に、皇太子派の紋章リングがあることを。
刺客だ。
彼女はヒデリコに警告しようとしたが、すでに遅かった。
夜、執務室で書類を読んでいたヒデリコの背後から、使者が短剣を振り上げる。
「危ない!! ヒデリコ様!」
咄嗟にクレスティアナが飛び出し、ヒデリコの前に立った。
短剣は彼女の肩をかすめ、血が滴る。
「クレナ!!」
それは、ずっとクレスティアナがヒデリコに呼んで呼んでもらいたいと懇願していた愛称だった。
彼は瞬時に護衛を呼び刺客を制圧。
そしてクレスティアナを自室に運び、自ら手当てを始める。
「なぜ身を挺して守ってくれたんだ? クレナはそんな事をする必要なんてないんだぞ?」
「……だって、ヒデリコ様が死んだら私は……」
言葉を飲み込んだ。
ヒデリコは包帯を巻きながら静かに言った。
「クレナ……君は本当に不思議な人だな。帝国の都から追いやられ、恨みを持つべき立場なのに、私を守ってくれた」
「私は……ヒデリコ様が好き……だからです」
告白してしまった。
ヒデリコの手がピタリも止まり、クレスティアナの顔をじっと見つめる。
「……私は三十九歳。クレナは二十歳。年齢差は十九歳。きっと世間はそれを奇異に思うだろうな」
「構いません。ヒデリコ様の知性も優しさもすべてが私の理想なのです」
「……私はクレナを妻としてではなく、一人の女性として見始めている」
その言葉に、クレスティアナの心が熱く満たされた。