第四章 城での暮らし
時間は流れ、クレスティアナはマスダーレン城での生活に慣れていく。
ヒデリコは朝早くから執務室にこもり、夜遅くまで書類に目を通すのが日常だった。
領民の訴えを一つ一つ聞き、税制を改革し、貧しい村に支援を送る。
「伯爵様はなぜそこまで?」
ある夜、クレスティアナが尋ねた。
「私はこの土地と人達のために生まれたんだ。だから、その人達が笑うために私が働く」
誰から褒められる事がなかったときても、ひた向きに誰かの為に働く。
その姿にクレスティアナは胸を打たれた。
彼は表舞台に立たず、影で国を支える男。
ゲームでは「隠れた正義の味方」と評される存在だった。
この人となら、幸せになれるかもしれない。
そんなある日。
クレスティアナは領都の市場に出かけていた。
そこで、貧しい少女が盗みを働いているのを目撃する。
店の女がいち速く気付き、その子を捕まえて箒で叩こうとした。
彼女はそんな二人に駆け寄り、間に割って入る。
「彼女は私の使いよ。お金も、今払おうとした所だったの」
彼女はそう言って、自分の財布から充分すぎる金額を出して店主に渡した。
そして少女と向き直り、その頭を優しく撫でる。
「そのパンと果物はもうあなたのもの。好きなところで好きに食べると良いわ」
その様子を遠くから見ていたヒデリコは、翌日クレスティアナを呼び出した。
「昨日、市場で善行を行ったそうですね」
「ぜ、善行? そこまでの事をした覚えはありませんが……何か問題でも?」
「いえ……ただ、貴女は単に高貴な令嬢ではないようだな、と。その心は素敵だと思います」
褒められた……のか?
クレスティアナの頬が熱くなる。
「……ありがとう……ございます」
「これからもこの城の主として、人々の声に耳を傾けてください。私は貴女を信じます」
その瞬間、彼女の心が完全に彼に傾いた。