第9話:断罪の宣告、崩れ落ちる者たち
謁見の間は、重苦しい空気に包まれていた。
私の故郷、元の王国の使者たちは、
床にひざまずき、必死に懇願している。
その中には、
アルフレッド王子の側近だった者もいる。
かつての傲慢な面影は、どこにもない。
ただ、醜い命乞いが響き渡るだけだ。
「リディア様…!
どうか、お慈悲を…!」
「全ては、あの宰相の陰謀で…!
我々は、王命に従ったまで…!」
彼らは、互いに責任をなすりつけ、
醜態を晒している。
その様は、
私には滑稽にしか見えなかった。
彼らの言葉は、
私の心を何一つ動かさない。
私の隣には、
レオニス王子がいる。
彼の小さな身体からは、
冷たい威圧感が放たれている。
その蒼い瞳は、
ひざまずく使者たちを、
まるで塵芥のように見下していた。
彼の指が、私の腰を、
きつく掴む。
まるで、私に、
二度と手放さないと、
言い聞かせるように。
私は、静かに口を開いた。
「お言葉ですが、
貴方たちは、私を悪と断罪し、
無実の罪を着せ、国外へ追放しました」
私の声は、ひどく穏やかだった。
だが、その言葉には、
一切の感情が宿っていない。
それが、逆に彼らを凍りつかせた。
「あの時、私の言葉に、
耳を傾ける者はいなかった。
アルフレッド王子もまた、
私の真意を理解しようとはしなかった」
私は、遠い目をして、
過去を語る。
「貴方たちは、私を捨てた。
そして、この弱小国を、
見下し、侮辱した」
使者たちの顔が、青ざめる。
彼らは、過去の自分たちの罪が、
今、まさに目の前で、
裁かれようとしていることを悟ったのだ。
レオニス王子が、私の手を握る。
その魔力が、私の心に流れ込む。
彼の感情が、私と同期する。
怒り、憎しみ、そして、
私への、底知れぬ愛情。
それは、私自身の感情と、
完全に重なり合った。
「アルセイン王国は、
もはや、誰の庇護も必要としません」
私は、はっきりと告げた。
その言葉は、
かつて私が、
無力に追放された者ではない、
この国の真の支配者として、
堂々と放たれた。
使者たちは、絶望に顔を歪めた。
「そ、そんな…!
どうか、考え直して…!」
「我々は、滅びてしまいます…!」
彼らの懇願が、
再び、謁見の間に響き渡る。
だが、私は、もう彼らを許さない。
私の瞳は、
冷たく、彼らを射抜いた。
その瞬間、レオニス王子が、
冷酷な笑みを浮かべた。
彼の声は、幼いながらも、
絶対的な、王者の響きを持っていた。
「君たちに、慈悲など必要ない」
「僕を恐れ、リディアを侮辱し、
この国を見下した報いだ」
彼は、私の腰を強く抱き寄せたまま、
ひざまずく使者たちに、
容赦ない言葉を叩きつける。
「次に貴方たちが、
このアルセイン王国に、
不敬な真似をすれば…」
彼の声が、一段と低くなる。
「その時は、
国ごと滅ぼす」
謁見の間が、静まり返った。
使者たちは、恐怖で青ざめ、
その場でへたり込んだ。
その表情は、
絶望に染まっている。
彼らは、自分たちの王国が、
今や、レオニス王子の、
気まぐれ一つで滅びかねない、
弱き存在であることを、
骨身に染みて理解したのだ。
私を追放した元の王国は、
アルフレッド王子は、
この瞬間、
アルセイン王国の、
足元にひざまずいたのだ。
彼らの栄華は、終わりを告げる。
私は、レオニス王子を見上げた。
彼の瞳は、
冷たい光を放っている。
しかし、その奥には、
私への深い愛情と、
私を守り抜いたことへの、
確かな満足が見て取れた。
私の心は、
彼の冷徹な支配を、
甘美に受け入れていた。
かつて、私を不当に扱った者たちが、
今、私たちの足元で、
絶望している。
これこそが、
私の望んだ「ざまぁ」。
そして、私とレオニス王子の、
築き上げた力の証だった。