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遮断

「敵潜宙艦! 船体後部に接近!」

 メアリーがモニターでその姿を追っている。


「あ! 出てきた!」

 潜宙艦のハッチが開き、中から宇宙服を着た何者かが飛び出してきた。


「1人……2人……7人? 7体? とにかく7つ!」

 現時点ではそれが人間なのかビーストなのかの判断はつかないが。各々背中や手元に武器や装備を抱え、ハンドブースターで一気に接近してくる。


「ああっ! 《《あんな所から》》!」

 侵入者が取り付いた先、それはあのミサイルのアウトリガーが接触して大穴を開いたV-3ブロックだった。


「ダメ! 侵入が早すぎて『吹き飛ばし』のエアーを送り込む時間がない!」

 恐らくそれはアウルの状況をよく観察した上で練られた計画なのだろう。


「ちくしょー! 易々と入りやがってぇ! 手抜きすんなぁぁ!」

 メアリーの見ている前で7体全ての敵があっという間に内部へ侵入する。そして。


《V-3ブロック、バルーンシステムの信号が遮断されました》


「何をするつもり……」

 ローラが船外ドローンが内部の様子を映しだす画面を食い入るようにみつめる。その向こうで侵入してきた敵はバルーンシステムの蓋を無理やりにこじ開け、膨らんだバルーンを次々と開いた穴の付近に押し込み始めた。

 そして最後に何かシートのようなものを上から被せる。


「……なるほど、あれで『大穴』を塞げるってことね。ち……っ! 宇宙軍艦で使われる裏技ってことかしら」


 不審船の臨検なども行う軍の船では敵の攻撃による船体破損は当然の想定事態だ。だから民間船には無い独自の補修ノウハウがあると囁かれているが……。

 ならば、彼らの『正体』は。


「軍……ていうことぉ? もしかしてヤツらの正体は。軍の一部が月世界自由同盟に加担しているとかぁ?!」


 メアリーの声が上ずる。もしもそうなら、単なるテロリストではない。完全なプロだ。いや、もっと言えば。


「『一部』ならまだいいんだろうけどね……」

 ローラの懸念は、つまり。


「軍部そのものが、まるごと……或いは月世界自由同盟そのものが、軍部という可能性も」


 もしもそうだとすると、彼らの潤沢過ぎる装備が何処から来たのかという謎も簡単だ。ミサイルも、潜宙艦も、軍部ならあって当然。そうなればもう情報漏れ云々というレベルではあるまい。


「どどど、どーするんですか?!」


「兎に角、もしも相手が軍の専門部隊であるとすればこっちに勝ち目はないわ。後は、ゼグラスの警備挺が到着するまで何としてもカグヤ様を護り抜かないと」


 ローラの眉間に深い皺が寄っている。普段は何があっても一段離れた位置から見渡している視線が、今だけは目の前に全てを向けている。余裕は、ない。


「テラ、ビーストを侵入者対応に向かわせて! 船体の損傷はどうでもいい、何としても敵の排除を!」


 だが、その呼び掛けにテラは無言だった。ヘッドセットからは何の返答もない。


「……どうしたの? テラ」

 もしかしたら、これは。


「クロード! クロード、聞こえる? クロード!」

 慌てて呼び出すも、クロードからも返答がない。


「パブロ! アンリ! カミーユ! 誰か聞こえていたら返事をして!」

 しかし、何処からも『聞こえている』という返事は返ってこなかった。


「まさか……量子通信が妨害されているとか?!」

 メアリーが悲鳴を上げた。


「船長! ダメです! フェニックス本部とも通信ができません!」


「何てことを……量子通信を止めるだなんて! だとすると……!」

 敵の排除に向かったビーストも、量子通信を介して動かしているのだ。


「やられた……これでは折角のビーストが」


 通信ができないビーストはただのマネキンだ。これで、敵の侵入を止める方法は無くなった。後は。


「……頼むわよ、クロード。何としてもカグヤ様を。あなたしかもう残っていないのだから」


 ローラたちが焦りを隠せない一方、侵入者たちは手際よく作業を進めていた。入念に準備をしてきたのだろう。


『……120秒経過。粘着シートの必要硬化時間を過ぎました。もう気圧を掛けても大丈夫です』

『区画システムへのハッキングを完了。コントロール不可能にしました』

『よし! 少しづつシャッターを開けて空気を入れろ』


 彼らが着こんでいる簡易タイプの白い宇宙服は、短時間を高機動で動くためのものだ。ヘルメットに着けられた遮光バイザーで顔は分からないが、中身は全て人間のようだ。


『本ブロックに空気を入れます』

 ブリッジからのコントロールで閉めたはずの区画シャッターだが、侵入者たちはその構造を熟知しているようだった。壁脇にある緊急用ハンドルの場所を探し当て、それを回してくと、しっかりと閉じていたシャッターが僅かずつ開いていく。

 真空だった区画に空気が入るプシュー……という音が聞こえ始める。


『……0.2気圧……0.25気圧……0.3気圧』

 少しずつ、侵入者たちのいるV-13ブロックに空気が入っていく。


『0.8気圧。ラウル班長、他の区画と均一になりました』

『よし、区画シャッターを全開にしろ。カグヤを確保しつつ、すぐにブリッジを制圧する。……邪魔する者は、殺してかまわん』


 ガコン……という重い音がしてV-13ブロックを隣と結ぶ区画が開いていく。その反対側には通信を切られてマネキンと化したビーストが3体、ふわふわと浮いていた。


『……行くぞ』

 『ラウル班長』と呼ばれた男が、ブースターを吹かせて飛び出した。次いで、他の6人もこれに追従していく。

 行く先々でビーストたちが沈黙した身体を漂わせている。


『便利なビーストも、こうなったらただのゴミだな』

『ああ、地球側で量子通信センターのシステムをダウンさせてあるからな』

『巧妙に作られたウィルスソフトなんだ、そう簡単には復帰せん。今のうちだ、さっさと片付けるぞ』


 機敏な動きで次の区画前まで辿り着き、またしても区画のシャッターを無力化して開けていく。そして、また次へ。


『ここから先が貨物エリアだ』

開けた先に、地球から積み込んだ貨物コンテナがズラリと並ぶ。その数、全ブロックの合計でざっと4000……。

 侵入者とてその総数を知らなかった訳ではないが、改めて息を飲む光景。


『落ち着け』

 ラウルが辺りを見渡す。


『カグヤの貨物室は最も安全な船体中央付近にあると見ていい。こんな端っこの方ではない。いくぞ』

 ブースターを吹かし、次のブロックへと向かう。


『何か目印になりそうなものが?』

 後続からの質問に、ラウルが『ある』と答える。


『カグヤの貨物を放置してはおけまい。近くには護衛のビーストがいてもおかしくない。もしくは人間の誰かが。それと給排気や電源などの不自然な配管が伸びているとか……だな』


 いきなり、ラウルがハンドブースターを吹かして進みを止めた。


『あれを見ろ。あの、黒いコンテナの向こう側にある薄汚れたヤツだ』

 指を差す先に、他とは少しデザインの違うコンテナがある。


『あの側面にあるのはドアですね』

『多分な。よく見ると変な配管も繋がっている。……ビンゴだろう』


 男たちが、その周りをぐるりと囲む。


『ラウル班長、キーキャンセラーを受付ません。通常の電子錠システムではないようです』


『そうか。ならば少々手荒にはなるが、焼き切るしかないな。おい、バーナーを出せ』


 潜宙艦から持ち込んだバーナーが青い炎を吹き上げてドアの鉄板を焼き切っていく。真っ赤に溶ける鉄がドロリと歪む。


『開きました』

『行くぞ! 中からの襲撃に備えろ』

 ラウル先頭を切ってドアを勢いよく蹴破る。中に誰かが待ち構えていたらその瞬間に迎撃があるだろうが、その反応はなかった。


『突入!』

 その掛け声とともに、男たちが一斉に飛び込むが。


『……誰もいませんね』

 部屋に、人影はなかった。隠れるような物陰もない。


『ふん』

 ラウルが主のいない豪華な部屋を見渡す。


『かくれんぼかのつもりか? 無駄なことを……どうせ船からは逃げられんのだ。キース、お前たちは4人でカグヤを探して確保しろ。エドガーは予定通り、リアクターコントロールルームへ迎え。アンドレは俺に着いてこい。ブリッジを抑える……ゼグラスの警備挺が到着する前にだ。そして』


 偏光バイザーの奥でラウルの瞳がニヤリと笑う。


『何処にいるのか知らんが、『7年前の借り』もついでに返さなねぇとな。見つけ次第ブチのめしてやる……待ってろよ、クロード・ウィンディール!』

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