ろく
冷蔵庫はうちのと変わらないサイズだけど、食材は豊富にあった。
調味料も充実しているし、乾麺もパスタから素麺、インスタントまで…。
本当になんでもあるなここ。
「何作るの?」
「豚のミンチがたくさんあるので、トマトを使わないボロネーゼモドキでも作ります」
これだけモノが揃ってるのにトマトだけ、生鮮も缶詰もないんだもん。
でも、なくても作れる。妹のこよみが大好きなやつが。
「本当に手際いいね」
微塵切りにした玉ねぎを炒めてるのを見ながら呟くパルム先輩。
「母に教わりましたから」
引きこもってる間、何もしないのは嫌だったから、せめて家事くらいは…と。
働きに出ている母さんの助けになりたかったし。
三ツ口のコンロの一つでは大鍋でお湯を沸かす。
こっちはパスタを茹でる用。
玉ねぎが飴色になるくらいで、パスタも茹で始めようと思い、振り返ってびっくりした。
キッチンエリアのテーブルに数人、フォークを持って待っている方がいるんだもん。
「あんた達なにしてんの…?」
「お疲れ様ですパルム先輩! 食堂に間に合わなくて…。こっちに来たらいい香りがしたのでつい」
「…ごめん、アルジェちゃん、追加お願いできる?」
「だ、大丈夫です!」
食材は沢山あったし。分けて作れば…。
「あの子達は3期生。夕方から収録なの」
パスタを茹で始めたら、パルム先輩が教えてくれた。
「じゃあしっかりと食べて力つけてもらわなくちゃですね」
「ほんと、ごめんね」
「大丈夫です」
そんな手間でもないし。好き嫌いも無いそうなので、にんにくも効かせた。
簡単なサラダも添える。
スパイス類で味を整えて、湯切りしたパスタにかければ肉の旨味たっぷりなパスタの完成。
「あんた達、せめてお皿くらい自分で運びなさい」
「「「「はーい!」」」」
パルム先輩に言われて、それぞれお皿を受け取ってくれた。
まだ誰が誰だかわからないけど、3期生の把握はしてる。
3期生は四人。みんなモンスターっ娘で、ドラゴンのマリー、ラミアのムーン、マーメイドのエリーゼ、マミーのソフィリナ。
ニューホープの中でも何かと話題の尽きない人達でキャラも濃ゆい。と社長ちゃんから聞いている。
その分人気も高いみたいだけど…。
因みに、4期生はモンスターを狩る勇者や騎士達っていうメンバーだから、3期生VS4期生ていう対戦コラボは定期的にやってる人気のコンテンツ。
いくつか見てみたけど、かなり盛り上がってた。
インクを塗り合い、自分のチームのエリアを拡大していくのとか、格闘ゲームとか…。
対戦中は敵対してるみたいな言動もあるけど、それ以外のコラボは和気藹々としてるから本当に仲が悪いとかそういうのではないみたいで、安心。
「あら…いい香りがすると思ったら」
「副社長ちゃんも料理?」
「ええ…急いでないからいいけど、美味しそうね?」
「めちゃくちゃ美味しいのだ!!」
「食堂閉まってて良かったって初めて思ったの」
「…ふははっ! 我にはやはり肉だな!」
「ん〜…いいわぁ〜。たまには魚以外もいいわね〜」
あ、誰が誰かわかった。
話した順番に、ソフィリナさん、ムーンさん、マリーさん、エリーゼさん。
キャラ付けって大事なんだなぁ…。普段からなりきってるのはさすがプロ。
って、なんかまた人が増えてる!?
副社長ちゃんに、社長ちゃんまで! 他にもマネージャーちゃんが何人かいるらしい。
作るけどね。口に合うといいけど…。
「これ、美咲より上手くないか?」
「社長ちゃん?ひどいわ。 でも確かにとっても美味しい…」
「本当に食材使ってしまって良かったのですか?」
「もちろんよ。と言ってもお料理する子なんて殆どいないんだけどね」
そう言って苦笑する副社長ちゃん。
「これってボロネーゼ?」
「はい。トマトがなかったので、モドキですが…」
「トマトはダメ!」
「ええ。ダメね」
会社のトップ二人がトマト嫌いだから無いのか。納得。覚えておこう…。
収録の準備があるからと、お礼を言ってくれた3期生の先輩達と入れかわる様に、パルム先輩が迎えに行ったピノ先輩も到着。
喜んで食べてもらえて何より。
洗い物はマネージャーちゃんが手伝ってくれた。
「アルジェさん、ですよね?」
「はい。お疲れ様です」
「…お疲れ様です。 私決めました!」
何をですか?
そう聞きたかったけど、なんかすごい気迫で聞けず。
食べたら眠くなったと部屋に戻っていったピノ先輩。
社長ちゃん達は打ち合わせがあると会議室へ。
人のいなくなったキッチンスペースでお菓子をつまみながら、パルム先輩とコラボについてキッチリと打ち合わせをした。
「ブロッククラフト初心者なら、そのまま知識を入れずにいてね」
「いいのですか?ご迷惑をかけたり…」
「それがいいんだよ。知らない子にイチから教えるってのも醍醐味なの」
「…? わかりました」
何やらゲーム内で使用する、アルジェのキャラスキンは既に用意されているらしく、それの設定方法や、オンラインへの入り方等、基本的な物だけ口頭で教わった。
キャラスキンっていうのは、ゲーム中、自身のキャラがディフォルメされた三頭身くらいの可愛らしい姿になるものだそう。
「明日までにオンラインに入れるところまで試しておいてね」
「わかりました!」
ニューホープ専用のサーバーがあるらしく、とりあえずはそこへ入れるように試しておけばいいみたい。
「でも、あのサーバーって誰かしら何時もいるから…あーだめだ。絡まれる未来しか見えなかった。ごめん、今時間ある?」
「はい。夜までに帰れれば…」
遅くなる時は最悪、ひろみ姉さんの家に行けばいいって言われてるし。
ここからなら徒歩で行けるくらいには近い。