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何故か同行するピノ先輩も一緒に、宿泊施設のあるエリアへ。

「ここは多分私が一番詳しいよ」

そう話すピノ先輩はここに住み着いている一人らしい。

利用している部屋も見せてもらったけど…。

「相変わらずきったないね! マネージャーちゃんは?」

「もう部屋の掃除はしない! って言われちゃって」

てへっと笑うピノ先輩がひろみ姉さんに重なる。


勝手に体が動いて、床に散らばるゴミを片付け…

「手際いい!?」

「後輩にやらせるとかどんなパワハラよ。ほら、私達もやるよ」 

「はーい…」

「あっ…勝手にすみません」 

「ううん、助かるよ。次、社長ちゃんに叱られたら宿泊施設から追い出される予定だったからねピノは」

「だから、内緒でお願い」

「わかりました。では早く終わらせてしまいましょう」

ひろみ姉さんの部屋に比べたらまだまだキレイな方だし。


「慣れてるね?」

「リアル姉が酷かったので…」

「妹力も高いだとっ! よし、アルジェちゃんは私の妹設定にする」

一応キャラも男の娘だから妹ではないのだけど、やぶ蛇になりそうだから黙っておこう。

「勝手に設定を付け足すな。あ、でも妹なら手は出さないか…」

「禁断の…」

なにか言いかけたピノ先輩はパルム先輩に強かにどつかれて蹲る。

「いったぁ!!」

「相手は未成年だっつってんでしょ!」

「ちっ…」 

そんなやり取りをしてても楽しそうだから、お二人の仲がいいのは伝わってくる。


30分程で片付けも終わり、次は大浴場へ。

あまり行きたくは無いというか、行っちゃいけないけど、下手に抵抗したら怪しまれる…。

まだお昼過ぎたばかりだし、利用者も居ないよね?

緊張しながら一階にあるという大浴場にエレベーターで向かう。


チンッとエレベーター特有の音と共に開く扉。

目の前にはとんでもない格好をしたお姉さん。

「パルムとピノじゃん」

「「お疲れ様ですサシャ先輩」」

「お、お疲れ様です」

「ん?その子は…」

「アルジェです。はじめまして…」

「あー! へぇーへぇー。これはウチで一番可愛いまであるじゃん」

僕の周りをくるりと回りながらそんなセリフ。

「それよりサシャ先輩、せめて服はちゃん着ましょうよ…。たまに業者で男性の出入りもあるんですから」 

「このままエレベーターで上がったら部屋だし、かたいこと言いっこ無しじゃん」

限度があると思う。髪は濡れたままだし、ロングTシャツ一枚で、それもだるんだるんになってるから色々と見え…。

だめだ、みたらだめ!


「…ふーん。 ま、よろしくじゃんー」

「よろしくお願いします…」

アクビをしながら、僕たちと入れ替わるようにエレベーターで上がっていったサシャ先輩。

語尾が特徴的で、少しキツめなのはリアルも同じ。

キャラはもっとキッチリした軍人っぽいのだけど…。

元傭兵って肩書きの、アクションゲームの配信を中心にしてる人。

朝まで配信をしていたらしく、今から寝るのだそう。

大丈夫か、大浴場…。人がいたらヤバい。

忘れてたよ…。配信者って昼夜関係ないって。

耐久とかって物凄い長時間のアーカイブとか見かけたのに。

ここでは普段の感覚や常識は通用しないんだ。

 

「あ、私ちょっとここによるね」

ピノ先輩が指差すのはコインランドリーのようなエリア。

本当になんでもあるなここ…。だから纏めた洗濯物抱えてきたんだ。


大きなドラム式洗濯機に何もかも纏めて放り込もうとするピノ先輩を慌てて止める。

「黒とか色の濃いものは分けないと…。それに下着はネットに入れないとすぐに悪くなってしまいます」

「へっ!?」

「どっちが姉なんだか…」

「パルムだって自分でやらないくせに!」

「私は実家暮らしだからねー」

仕方なくピノ先輩に聞かれるまま、仕分けも手伝い、いくつかある洗濯機に分けて一気に洗う。


「アルジェちゃんもここに住まない?いっそ私の部屋に…」

「やめんか!」

またパルム先輩にどつかれるピノ先輩。

漫才みたい。


洗濯機を回している間に大浴場も見せてもらった。

幸い、人がいなくてホッとした。

でも、人が居ないのなら入ってみたいって思えるくらいに素敵な大浴場。

旅行番組で見るような温泉旅館に引けを取らないんじゃないだろうか。

「アルジェちゃーん。お姉さんと入ろっか?」

「…え?」

「あーピノも配信明けだっけ」

「そうそう。お風呂出たら、軽く食べて寝るつもりー」

「いえ、僕は…」

「着替えもないもんね。ほら一人寂しくいってきなよ」

「えー! 着替えくらい貸してあげるし!」

「全部洗ったでしょ…。って、アンタお風呂出たら何着るの!?」

「え?洗濯終わったやつ」

「ピノ先輩、洗濯は終わっても乾燥に時間がかかります。それに、ランドリーエリアまでどうするんですか」

「これ…」

手に持ってるのはタオル。

あー…なんか、ピノ先輩を見ていたら、ひろみ姉さんも大丈夫か不安になってきたよ。


「乾燥まで終わったら届けるわ。流石にタオル一枚で歩くのは無し」

「パルムはかたいねー」

常識的な話では?


「食事はどーすんの? 時間的に食堂はもう閉まってるけど」

「げっ!?マジぃ? どうしよう、コンビニ飯苦手なんだよね」

「こっちのキッチンで作れば?材料は自由に使えるんだから」

「私が作れないの知ってて言ってるよね!?」

「あの、材料使っていいなら僕が用意しておきますけど…」

「「料理までできるの!?」」

びっくりしたー。二人で大きな声出さなくても。

お二人とも良く通るいい声だけど…。



パルム先輩も食べてみたいって言うから、そのまま別の階にあるキッチンエリアに案内してもらった。

ピノ先輩は急いでお風呂済ませてくるって、大浴場へ駆け込んでいったけど。


「ここがキッチンエリア。たまーに作れる子が作ってたりするけど、基本は副社長ちゃんの支配エリアだね」

「使って大丈夫なんですか…?」

「汚したままにしなければ平気だよ」

じゃあ大丈夫。そんな事は家でもやんない。

大きな冷蔵庫にある物は自由に使っていいらしい。


何があるんだろう?これだけ大きな業務用みたいな冷蔵庫なら色々あるよね。

「あ、そっちは…」

期待して開けた冷蔵庫の中身を見て愕然とした。

「お菓子とジュースしかないです…。冷凍庫にはアイスだけ…」

「あはは…。食材はそっちじゃなくてこっちの冷蔵庫ね」

パルム先輩が指差したのは小さい家庭用冷凍庫だった。

バランスぅ…。









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