よんじゅーいち
アルジェのフィギュアドールが先輩方に散々に弄ばれ…。
見ていると可哀想になるくらいに。
今は真ん中のテーブルにぺたんと座ってる。撮影とかも沢山されていたから早々にバッテリーが切れるのでは?と思ったんだけど全然元気に稼働してる。
説明書を確認すると二十分の充電で一時間くらい連続稼働できるとは書いてあった。
でも、とっくに一時間は過ぎているのにまだバッテリーが切れる様子はない。カタログスペックより優秀なのかも…。
そういうのも情報として必要かな?と思い、メモしておく。他にも気になった事をいくつか…。
「アルジェちゃんもそろそろ夜の配信始める?」
「はい! 今、告知しようかと…」
「わかったよ。じゃあ私達もゲームの方に切り替えるね」
先輩方はずっと雑談として配信続けていたもんね…。
僕が配信の準備をしていたら、マローネさんとソフィリナ先輩が何か内緒話をしていたのだけが気になった…。
ゲームにログインすると、昼間だったから先輩方も落ち着いてる様子。
武器類もまだまだ在庫があってホッとしたけど、これから必要になるかもしれないし、素材はたくさん集めてくれてあるから作らないと。
ラージサイズボックス一つ分を更に追加したところで先輩方が騒がしくなり、武器や防具を取りに来られる方も増えた。
少し外を覗くと暗くなってるね…。
「アルジェちゃん」
「はい? マローネさん! どうかされましたか?」
「何も言わずにボクを信じて武器と防具を渡してもらえる?」
「かまいませんけど…」
どうしたんだろう?
「ありがと。何があってもボクを信じてね…。行ってくるから!」
マローネさんは意味深なセリフを残して出かけていった。
何があっても信じてって…。声は真剣だったから絶対に何か意味があるはず。
でも、理由はわからないまま。
在庫の確認をしようとボックスを開けたら大量の武器防具がなくなってて…。
先輩方は毎回一組ずつしか持っていかれないから、こんなに一度に減るのはおかしい。
しかも最後にこのボックスに触れたのはマローネさん…。
あのセリフと武器類の大量持ち出しに何か関係があるの?
今は悩んでいてもわからないから、在庫を増やさなくちゃ。
また戦闘が始まるのだから…。
壊れてしまった武具も先輩方が置いていってくれるから、それらも修理して…。やっともとの在庫量まで戻したところで、ピノ先輩が駆け込んできた。
「アルジェちゃん! マローネが裏切った!」
「え…?嘘ですよね?」
「残念ながら本当だよ。フレンドリーファイアが名前の通りこちらを攻撃してきたんだから間違いない! 空中拠点ももう安全じゃなくなるから気をつけて! いざとなったらそこから逃げて隠れてるんだよ!」
ピノ先輩が指差すのは、床にある1マス分の落とし戸。あれ、逃げ道だったんだ…。
「ピノ先輩、マローネさんもソフィリナ先輩も裏切ってないと思います…」
「信じたい気持ちはわかるけど、実際にフレンドリーファイアに地上拠点がやられてるの! グループチャットに返事もしないんだから!」
そんな…。でもマローネさんは信じてって言ってた。あのセリフがこの事なんだとしたら…。
あれ?
「ピノ先輩! フレンドリーファイアに襲われたのは地上だけですか?」
「そう! だから絶対に降りてきたらだめだからね」
「おかしくないですか…?」
「そう、おかしいよ! 裏切るなんて!」
「いえ、そうではなくて…。飛べるドラゴンのフレンドリーファイアがなぜ地上のみに攻撃したんでしょう?マローネさんなら、こちらの空中拠点のが重要な場所なのは知っている筈です」
「それは…」
「少し前にマローネさんがここに寄られて、”何があってもボクを信じて“とそう言われたんです」
「アルジェちゃんはそれを信じるの!?」
「はい! マローネさんの声は真剣でした。ですから…」
「地上拠点が落とされた!! マローネのドラゴンがこちらに攻撃してくるのも時間の問題だ! 非戦闘員は建物内に避難だ!!」
外から聞こえるのは勇者ユリウス先輩の声…。
「まだ信じる…?」
「……はい」
「わかったよ。アルジェちゃんがそこまで言うなら私も少し様子を見るよ。メルティ先輩とパルムには私から話しておくね」
「はいっ!」
「でも、いつでも避難できるようにはしておくんだよ」
「わかりました…」
ピノ先輩はまた走って出ていかれて、入れ替わるように戦闘要員の先輩方が武器や防具の補給に次々と寄っていかれた。
マローネさん…。せめてもう少しヒントを欲しかったです。
チラッと避難するための落とし戸に目がいったけど、逃げるなんて選択肢は絶対にない。僕はできることをします!
武器や防具を切らしてしまったら先輩方が戦えないのだから。
「アルガードのみんな、お願いがあるんだけどいいかな?」
コメント欄は”何でもいえー“とか”全部理解した!“とか…。まだ何も言ってないよ?
「マローネさんが武器とかを持ち出したのだけは先輩方に秘密にしたいんだけどいいかな?みんなもお願い」
流れていくコメントはほとんどが肯定的な意見ばかり。でもそんな中で目についたのは”先輩を信じないの?“というもので。ハッとしてしまった。
「そう…だね。大切な先輩を信じないのはおかしいよね…。じゃあ話すタイミングだけは任せてくれないかな」
今度は肯定的なコメントばかり。更には応援してくれるコメントまで…。
「ありがとう! 後は僕が先輩方にうまく話をして説得できるか、だね…」
責任重大だ。
少しして、メルティ先輩とパルム先輩と一緒にピノ先輩が戻られた。
「アルジェちゃん…説明して?マローネの事」
「はい…」
お二人にもマローネさんの残していったセリフを伝える。
「何があっても信じて…か。他には何かあった?」
「マローネさんはものすごく真剣な様子でそのセリフを言ったあと、武器防具を結構な数待ちだされました…」
「それってマリーへの手土産ってことじゃない!」
「ピノ、少し黙って…。考えてるから」
「でも!」
「ピノはマローネが信じられない?」
「パルムは信じられる?この状況で…」
「うーん…。何故マローネがアルジェちゃんにだけ伝えていったか、そこを考えたらいいんじゃないかな」
「どういう事?」
「たとえば、ピノはアルジェちゃんの言う事なら何でも信じるよね?」
「アルジェちゃんの事ならね! でもこれはマローネのやらかした事だから何処まで信じていいか…」
「そこだよ。仮にだよ?今のマローネのセリフをソフィリナから聞いたらどう?」
「え?ソフィリナも裏切ってるとみなす!」
「でしょ? 私達がアルジェちゃんに甘いのを見越した上で、一番信じてもらえる可能性の高い相手に伝言を残したと考えられない?」
「それは…」
「パルム…。それ、真理かも…。ピノ、もしグループチャットでマローネから連絡が来たら教えて…。多分それが合図」
「なんのですか!?」
「その時にわかる…。今はここの防御を固めて、なんとか地上の拠点を取り戻す方法を考えるよ」
「…わかりました。地上が取り戻せなければ物資も枯渇しますからね」
「アルジェちゃん、武器防具は必ず壊れたものを引き取って修理するようにしてね…こちらからもみんなに伝えておくから」
「わかりました! 物資を温存するためですね」
「そう…。パルムはもしもに備えてアルジェちゃんのそばにいて…。私はここにいられないから」
「わかりました。武具は生命線ですからね!」
「じゃなくて…私のやる気に直結するから絶対に守るように…」
「は、はいっ!」
よかった…。ちゃんと信じてもらえた! 全部パルム先輩の口添えのおかげだけど…。
先輩を信じるようにと言ってくれたアルガードの人に感謝しなきゃ。
ボイスチャットをオフにして…。
「先輩を信じるようにと気づかせてくれてありがとう。アルガードのみんなに助けられたよ」




