さん
ニューホープ 社長室。
いつもの椅子に座り、パソコンで昨日の配信を見返す社長。
隣から覗き込むのは副社長。
「社長ちゃん、初配信を見てどう?」
「うん、いい子だよね。私の話した事をよく理解してくれてるよ」
「そうね…あの子は今の自分の置かれている状況が、先達の力あってこそだってよく理解してるわ」
「わかってもらいたくて話したけど、あそこまで真摯に受け止めてくれるとは思わなかったよ。誰かと大違いだね」
「それ、私の事言ってる?」
ソファーに座る二十代くらいの女性が言葉を挟む。
「良く分かってるじゃない。いきなり増えてる登録者数の数に大喜びして、態度が大きくなったのは誰だったかしら」
「もう反省したから言わないでよ…。 あの時は調子に乗ってたのを認めるから!」
「新しい後輩なんだから、面倒見てあげてね! かわいい子だから」
「そこは任せて。ご飯にでも連れて行って仲良くなるよ!」
「コミュ力に関しては信用してるからお願いしたけど、本当に大丈夫かしら…大人しい子だから、優しくしてあげてね」
「わかってるって! 何人のメンバーを面倒見てきたと思ってるのさ」
コンコン…と部屋に響くノックの音。
「失礼します…」
「アルジェちゃんね。はいっていいわよ」
「ここ私の社長室なんだけど!?」
「細かい事はいいじゃない。そんなだから成長しないのよ?」
「言ってはいけないことを!!」
えっと、何これ?
初配信後、話があるからと会社に呼び出されたのに…。
入室した社長室では、社長ちゃんが副社長の三咲さんに飛びかかってる。
「アルジェちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です。 えっと、初めまして…」
「私はパルムだよ。ケモミミっ娘のパルム! ここでは本名で呼び合うことはほとんど無いから。パルムって呼んでくれればいいよ。あっ、でも外でその名前で呼ぶととんでもない事になるから、先輩とでも呼んで。私はそうだな…アーちゃんとでも呼ぶよ」
「よろしくお願いします、パルム先輩」
すごくグイグイ来るからびっくりしたけど、嫌な感じはしない。
先輩方の名前とキャラの見た目は覚えるように頑張ったけど、中の人までは把握してない。
まだ会ってない人も沢山いるし…。
「社長ちゃん、こんな可愛い子何処から攫ってきたの? まだ中学生…いや、流石に高校生?どちらにしても未成年はマズいって!」
「人聞きの悪い事を言わないでよ! ちゃんと親御さんの許可も貰っているんだからね」
「本当に? 君かわいいね〜?うちで働かない? 売れっ子にしてあげるから、ウヒヒ…とか言って攫ってきたんでしょ?」
パルム先輩の社長ちゃんの声マネが上手すぎて、一瞬どっちが話してるかわからなくなるほどだった…。
「あの、パルム先輩。僕そんなこと言われてませんから…」
「ふーん…アルジェちゃんがそう言うなら、そういう事にしておくよ。 社長ちゃんがスカウトしただけあって本当に君の声可愛いよね?ちょっと真似してみていい?」
「え、は、はい。どうぞ…」
いきなり声真似とか、凄いな。
社長ちゃんの真似が凄かったからどうなるんだろう?
「あー…あ…ー んんっ… 僕はアルジェだよ。 違うな… あー〜… 僕は…、僕はアルジェ…。 難しいな!?」
「パルムでも真似できないとかあるのね〜」
「なんていうか、可愛いのに少し深みのある声が出せなくて。アルジェちゃん、もう一度何か話してみて?」
「えっと…?パルム先輩の社長ちゃんの声真似凄かったです」
「社長ちゃんの… 違うな。 んんっ…社長ちゃんの… あれ〜?」
何度も繰り返すも納得いかないようで…。
「私、女の子の声なら余程特殊じゃなきゃ真似できるのに…」
あっ、これ不味くない!?どうしよう…。
こういう時は余計な事はいわない、だったね。
社長ちゃんに言われてる。
怪しまれたらだんまり決め込んで、社長ちゃんに呼ばれてるからって言って逃げてくるようにって。
今は目の前にいるけど。
「それだけ特別で素敵な声ってことだね! アルジェちゃんの声は私が一度聞いて惚れ込んだくらいだから!」
「そうね。社長ちゃん自らスカウトのメールを出したくらいだもの」
あのスカウトの話、社長ちゃん直々だったんだ。
「そうなのかなー?確かにうちにはいない声だよね。 うん、気に入ったよ! よろしくね」
「は、はい!」
何とかしのげたのかな?
「今日、アルジェちゃんを呼んだ本題にはいるね。 まずは初配信お疲れさま。当面はパルムが先輩として面倒を見てくれるから、わからない事や、なにか問題があったらパルムに伝えてね」
「わかりました」
「仕事が増えるようになれば個別にマネージャーもつくから、そうなったらまたその時にね」
マネージャー!?それ、どこの芸能人…。
「最初はびっすりするよねー。でも、仕事が増えて、スケジュールの管理とかもしなきゃいけなくなると、マネージャーちゃんは必須だよ」
「そうなんですね…」
僕はそこまでなるとは思えないけど…。
細々と動画の配信とかをしていくつもりだし。
「取り敢えず、直近でスケジュール空いてるのは何時?」
「僕はまだ予定もないので…」
今日はそのお話もあるのかと思ってたんだけど。
「じゃあこっちに合わせてもらうね」
そう言うとスマホを確認するパルム先輩。
「明日、夜の六時から私が配信予定だから、コラボしようか!」
「コラボ、ですか?」
「そう、ちょうどブロッククラフトの配信予定だから、一緒にやらない? あ、ブロッククラフトは知ってる?」
「名前だけは…」
「おおー! 初心者!! これは盛り上がるね! 告知はこっちでしておくからよろしくね」
「は、はい!?」
あれよあれよという間に話が決まり、なにがなんだかよくわからないまま…。
「詳しい話はご飯でも食べながらしようか。食堂に行くよ! お姉さんが奢ってあげるからね!」
食堂あるんだここ…。じゃなくて!
「ありがとうございます」
「素直でよろしい、行くよ!」