さんじゅーろく
空中拠点への引っ越しも無事に終わり、ピノ先輩はここにも城のような建築物をアッという間に建ててしまった。
こっちはどちらかというと日本のお城風。石垣とかまで再現されてるし、庭には池とか松の様な植物まで植えられてて、もう凄いの一言。
石垣の中は地下貯蔵庫の様になっていて、今まで集めてきた大量の物資が収められている。
他にも大きな畑や各種動物達の牧場。さらには城下町のように建物が作られ、薬を作る家、武器防具を作る家…と用途に合わせてパッと見でもわかるようになっている。
これは人が増えた時にもわかりやすいようにとの配慮かな。
他に普通の家も建てられているから、そちらにベッドを置けば落ち着いて休める。
「アルジェちゃん、ちょっといい?忙しかったりする?」
城下町を見ながら建築のお勉強をしていたらパルム先輩が…。
「いえ、大丈夫です。すごい建築なので、見て回っていただけですから」
いつか自分でも作れるようになりたいから…。
パルム先輩についていくと、ピノ先輩と仮眠から起きられたメルティ先輩も集まってて。
「これ、せっかくだからアルジェちゃんに使ってもらおうと思ってね」
三人が囲んでいる箱を開けるように言われて中を見ると、パルム先輩と探検中に見つけたお宝部屋で回収してきた卵が。
「床に向かって投げてみるといい…。運が良ければアルジェちゃんを守ってくれる仲間になる…」
「いいのですか?レアなんですよね、これ…」
「アルジェちゃんはこのゲーム初心者だから卵を使うのも初体験だよね?」
「はい」
「アルジェちゃんの初体験、初めて…はぁはぁ…」
「落ち着けピノ。地上に落すよ」
「ピノはもう堕ちるとこまで堕ちてる…。もはや救いようが無い…」
「そうでした」
「みんなして酷っ!」
ここから落ちたら一発アウトだろうなぁ…。かなりの高さだから。
先輩方三人に遠慮せずに使うように言われてしまっては、何時までも固辞していては失礼かなと思い、お礼を言って卵を回収し、床に投げてみた。
パシャっと卵が潰れたような音がして一瞬不安になったけど、小さな真っ白い生き物がふよふよと飛び上がった。
「すっご! SSRじゃんこれ!」
「そんなレア度とかないから。 でも珍しいのは間違いないね」
「当たりだよ…アルジェちゃん」
真っ白の生き物はドラゴンの赤ちゃんらしい。小さすぎてよくわからなかった。
コメント欄も盛り上がってるから、かなり珍しいのは間違いないみたい。
「肉類をあげてお世話してあげてね」
「わかりました! ありがとうございます」
先輩方にお世話の方法を詳しく教えてもらい、ついて来るように指示をしておけばいつもそばにいてくれる。頼もしい味方だ…。
名前もつけられると聞いて、悩んだ末にコメント欄からもアドバイスをもらい、”アルザード“になった。アルガードからきているそう。僕を守ってくれる仲間だからと。
これがきっかけで僕のファンでもある”アルガード“の姿は、ファンアートとかで可愛らしい仔ドラゴンの姿で描かれるようになるのはもう少し先のはなし…。
そうこうしていたら、ソフィリナ先輩とマローネさんが起きてログイン。
ドラゴンを見たソフィリナ先輩は複雑な顔をしてる。
「うちの脳筋ドラゴンを思い出すのだ…」
「ドラゴン…あっ、マリー先輩ですか?」
「うむ。あいつはバカだから大変なのだ。ドラゴンだからって威張ってるのに頭が悪くて本当に困るのだ」
そう言いつつもマリー先輩の事を楽しそうに色々と話してくれるから、実際は大好きなんだろうなぁ。
「またレアなのを引いたね。運がいいよ」
「マローネさんはご存知なんですね」
「まぁね。ブロクラももう長いし…。でもドラゴンを見たのなんて数回かな。ま、卵そのものがレアだし」
そんなになんだ…。
「よし…。二人もちょうど来たし、みんなで出かけようか…」
「メルティ先輩、どこに行くんです?」
「パルムとアルジェちゃんが見つけてくれた宝の地図を使って、お宝回収…」
ああ! 卵と一緒に拾った! 確かに気になるかも!
出かける準備をして、全員で出発。
大きなリュックには食料と武器、ピッケルやスコップといったツール類。後は新たに水筒、ランタンと寝袋が装着されて、本当に探検に行くような姿になってワクワクする。
「ランタンは暗いところに入ると自動で照らしてくれるから便利だし、寝袋はどこででもリスポーン地点を設定できる便利なものだから覚えておくといいよ」
「はいっ! リュックの見た目にも変化があるのはリアルでいいですね」
「でしょ?うちの子たちにも人気だから、素材が集まったらみんな作ってるんじゃないかな」
「おくれないようにね…」
「はーい!」
地図はメルティ先輩が持って先導してくれているからついていく。
アルザードもパタパタとついてきてくれるのが可愛くて。この子はある程度の荷物も持ってくれるそうだけど、まだ小さい今は自分の餌になる肉だけもたせてる。お腹すかせたら可哀想だし…。
しばらく進むと海にでてしまい、急遽ボートの作成。
近くにあった木を切り倒して、クラフト台でボートとオールを作るのだけど…。
「こんな簡単にボートができると、乗って大丈夫か不安…」
そうつぶやいたら、コメント欄では“そういうものだから”と。
ただ一つ気になったのが…。“あまり勢いよく陸や他のボートにぶつかると沈むよ“ってコメント。
「これ沈むの!?」
おっそろしい…。海の真ん中で沈んだらどうしたら…。
「あれ、教えてなかった?」
「はい。今コメント欄で教えてもらって…」
「アルガードはしっかりとアルジェちゃんの護衛だね」
「はいっ! いつも色々と教えてくれたりするので助かります」
「いいなぁ…。ピノっ子なんて当たり前に騙してくるよ?」
「それはピノ先輩の普段の行いなのだ。絶対にそうなのだ!」
「おいこらソフィリナ! 私にケンカ売るの?」
「そういうとこなのだ! わかれよなのだ!」
「フレンドリーファイアのソフィリナ先輩のリスナーはどうなんです?」
「ソフィリなん達は優しいのだ! いぢわるとかされないのだ。というかマローネ! なんなのだ?そのフレンドリーファイアのソフィリナって!」
「ボクが何度斬られたかおしえましょうか!?二十三回ですよ!! 二十三回!」
「…きっちり数えてるとかちょっと引くのだ…。マローネは細かい事気にし過ぎなのだ」
「細かくないです!」
ケンカしてるような会話なのに、仲良さそうに感じるのは僕だけ?
海に漕ぎ出す前に皆さんがじゃんけんをはじめて…。何をしてるんだろう?
ボートでの移動は慣れないと危ないからって、パルム先輩の後ろに乗せてもらい、快適な移動。
二人乗りができるそうで、地図を持っているメルティ先輩はピノ先輩の後ろに。
「アルジェちゃん、次は私の後ろだからね!」
「は、はい!」
ピノ先輩とメルティ先輩、それにパルム先輩がじゃんけんしてたのは誰が後ろに僕を乗せるか、って理由だったと知ったのは海の真ん中に行ってからだった。
ちなみにマローネさんとソフィリナ先輩がじゃんけんしてたのは、どちらが操船するかっていう理由。
勝ったのはソフィリナ先輩だったんだけど、船出と同時に浅瀬に激突。速攻で船が沈み、操船はマローネさんに交代。
船はああやって沈むんだなぁと実践で教えてもらえた。
海を渡りきれたのは太陽が傾き、夕日に変わる頃。
「そろそろ暗くなる…。ピノ、仮でいいからそこの山に洞窟でも掘って休める場所の確保…。ソフィリナとマローネは私と周りの警戒」
「りょーかいです!」
「んあ!?なんでウチなのだ!?」
「文句言ってないで行きますよ、ソフィリナ先輩!」
「ま、待つのだマローネ!」
僕はどうしよう…。必要になるだろうクラフト台だけでもまずは置いて…武器とかを直せるようにしてと。
「お、ありがとね、アルジェちゃん! 扉とか作るにも使うから助かったよ」
「はい! あのピノ先輩、なにかお手伝いすることありますか?」
「そうだなー、パルムと近場の木を倒して見晴らしをよくしておいてもらえる?メルティ先輩達が戦うにもそのほうがいいと思うし。木材はもらえたらこっちで使うよ」
「わかりました!」
パルム先輩と手分けして木を切っていたら薄暗くなってきて…。
「アルジェちゃん! そろそろ危ないからこっちにおいで!」
「は、はい!」
ピノ先輩に呼ばれて戻ると、山の側面に明かりと扉がついてる。
「外装はまんまだけど、中は快適にしてあるからね」
開けてくれた扉の中は、洞窟なんてとんでもない! 木造の快適な宿みたいだった。
「ピノ先輩は本当に建築センスがすごいです! あんな短時間で…」
「いいわぁ…素直な称賛が染みるよ」
「アルジェちゃん、大丈夫!?」
「パルム先輩…?」
「よかったぁ…。ピノに連れ込まれてたから心配したよ!」
連れ込まれたって…。内装を見せてもらってただけなのに。今はたしかにハァハァ言っててちょっと怖いですけど。
「すいませーん! そろそろ敵が出ると思うので、味方に斬られる前にリスポーン地点を置かせてください! おお…土の洞窟かと思ったら宿ができてた!」
「大切な後輩をそんな場所で休まさせないよ!」
「ありがとうございます!」
マローネさんは手慣れた様子でリュックを床に置くと、寝袋をバサッと広げて一瞬寝転んで直ぐにまた出ていった。
「あの子、使い方ちゃんと知ってるんだね」
「ピノが教えたんじゃないの?」
「いやいや、私ここで建築してたじゃん」
「メルティ先輩かな?」
「じゃない?」
僕はソフィリナ先輩な気がします。
「敵が出た途端当たり前のようにボクまで斬られた!! もう! 設置しといてよかった…」
寝袋のそばにリスポーンしたマローネさんはすぐに出ていった。
「またすぐ戻ってきそうですね」
「ほんとそれ」
「ソフィリナはなぁ…。やたらめったら振り回すから近くにいるだけで巻き込まれるんだよね」
ちょっと気になって外を覗いたら、まるで竜巻のように武器を振り回しながら移動してて。
なのにメルティ先輩はまるで軌道を読んでいるかのように華麗に躱す。で、見てる目の前でまたマローネさんが斬られて…。
あれ、避けれるのなんてメルティ先輩くらいでは?と怖くなるくらい、ソフィリナ先輩の戦い方は恐ろしかった。
「アルジェちゃんもマローネみたいにリュックを下ろして寝袋広げておくといいよ」
「あ、はい!」
パルム先輩に教わりながら床に設置。
「キャンプみたいですね」
「確かに。外は危険地帯になってるけどね」
「それ、元凶は主にソフィリナじゃね?」
「うん、言えてるわ」
あはは…。
移動の間にちょっと大きくなったアルザードもリュックの側でおとなしくしててくれる。
止まるように指示すればそこにいてくれるのはありがたい。外に出ていってしまって巻き込まれたら…なんて考えたくないから。




