さんじゅーよん
ヴィオラさんに、冷たいジンジャーエールを届けて、ゆっくり飲んでもらった。
酔った時には、冷たいものや炭酸、ショウガもいいってお母さんに聞いてたから。一つで全部満たしてるジンジャーエールはすごい。
飲んで落ち着いたのか、ヴィオラさんも初対面の時みたいに落ち着いた優しい笑顔を向けてくれてホッとした。あまり直視できない格好だから見ないように気をつけたけど、失礼だったかな…。
「アルジェちゃん、ありがとう…」
「はいっ! 無理しないでくださいね」
「ええ。でも、せっかくのイベントだから頑張るわ」
「もしゲーム内でも会えたら、そっちでもよろしくお願いします」
「そうね、会えるといいけど…」
お互いどこにいるかわからないもんね…。なんとか会えたらいいなぁ。
「お昼前くらいから私達も配信しようかと思うけど、アルジェちゃんもいい?」
「大丈夫です! それまでに昼食の仕度はしておきますから、それを持ち込みましょう」
「助かる…。みんなで手伝おうか…」
「いいですねそれ!」
「いや、パルムは手を出さないほうが…」
「失礼だなピノは。 アルジェちゃん、教えてくれる?」
「えっと、後はおにぎりを握るだけなんですが、量が多いのでお願いしてもいいですか…?」
「それなら、私も行くわ。いい?」
「はい! こちらも協力作業ですね!」
みんなと一緒に何かするのって楽しいと思えるようになったから。
前は一人でいるのが一番楽でいいと思ってたのに…。
みんなで色々な形に握られたおにぎりと、ちょっとしたおかずは、キッチンエリアのテーブルに並べておく。これでみなさん自由に食べられる。
後は夜の為にタイマーで炊飯器をセットして…。ハンバーグのタネも冷蔵庫に寝かしてあるから、夕食時に焼くだけ。
ヴィオラさんは個人の配信部屋へ行くから途中で別れたけど、おにぎりを持っていってくれたから体調も落ち着いたのかな。また酔わないといいけど…。
僕達もお皿を抱えてグループ配信部屋へ。
部屋の中に入ってびっくりした…。
ソフィリナ先輩とマローネさんがとんでもない格好で寝てるんだもん。
しかも部屋の真ん中付近で寝てるから目のやり場に困る。
テーブルにお皿だけ置いて、機材のチェックをしておこう。
「相変わらずソフィリナはだらしないな。ピノ、そのへんのタオルをかけてやってくれる?」
「りょーかい。マローネもなんて格好してるのやら」
背後からそんな会話が聞こえるけど、聞こえない聞こえない…。
「アルジェちゃん、となりいい…?」
「はい! メルティ先輩が近くにいてくださると心強いです」
「ふふっ…」
隣の配信機材でメルティ先輩も準備を始める。
僕もしっかりと準備しておかなきゃ…。
「じゃあこっちは私が。よろしくね?」
「パルム先輩、いつもありがとうございます」
「うん?どしたー急に」
「会社に入ってからずっとお世話になってて…なんて言えばいいかわからないのですが、近くにいてくださると安心するので…」
「そう? だったら嬉しいけどね。危ないのは近づけないから安心していいよ」
「うわ! 隣取られてる!? パルム、それが狙いだったか! 策士め…」
「人聞きの悪い言い方するな! まぁでも今回限ってなら正解だけど」
「代わってよ!」
「断るね」
「メルティ先輩!」
「……ピノはあっち使えばいい」
メルティ先輩が指差したのは背後。ちょうど壁際に3セットずつ配置されてるのだから仕方がない。
初日に三人でここを使ったときは、極力お互いの声がマイクに入らないようバラバラの位置で機材を使用したけど、今回は全部の機材がフル稼働するのだから、隣り合わせになるのは当然で…。
といっても多少の距離はある。それでも大きな声を出したら先輩方のマイクにも声が入るかもしれないし、気をつけなきゃ…。
告知をして、先輩方と一緒にゲームの中へ。
僕が昨日ゲームを落ちた時より遥かに拠点が拡張、強化されていてびっくり。
「すごいでしょ?」
「はい! これもピノ先輩が作られたのですか?」
「私達も手伝ったよ」
「お疲れ様でした。 それにしても…なんかもう要塞のようですね」
「ゾンビがね…壁登るようになったの…」
「え…」
想像したくないな…怖い。今が昼間で良かった…。
メルティ先輩の話では、ゾンビの強化の段階が上がった時に突然よじ登りだしたんだそう。
「先ずは壊せるブロックの硬さが変わるかな…?と金属を集めてそれで防壁を築いてたんだけど、いきなり登りだしたのは予想外だった…」
「だからね、一ブロック分せり出させて返しをつけて上がれなくしてるんだけど、それもいつまでもつやら」
「そのうち穴も掘るだろうし、壁も壊すだろうから…。 今からは空中拠点の建設に取り掛かるよ…」
「空中拠点ですか?」
「そう…。 ピノ、アルジェちゃんに見せてあげて…?」
「かしこまりー! 基礎だけちゃちゃっとつくっちゃいますねー」
ピノ先輩はタンタンタンと足場を作りながら登っていくと、現在の拠点の真上にお皿のようなものをあっという間に作ってしまった。
パルム先輩はピノ先輩が足場にした塔にハシゴをかけて登っていく。
「今はまだハシゴで行くけど、最終的にはあれも壊す…」
「登れなくなりませんか?」
「その為にゲートを作る…」
ゲート…。どういうものかだけは口頭で習った。
確か、特殊なブロックで囲んだ範囲がワープゲートになって、そのゲートに宝石を嵌め込む。
宝石の種類が同じゲート同士を繋ぐから、当然対になるゲートも必要で、そちらにも宝石を嵌め込む。
「ゲートを作るために必要なのは、入手の難しいブロックじゃなかったですか?」
「覚えてて偉いよ。 その通り。でも今回はメルティ先輩が必要数ゲットしてくれてます」
「という事は地下深くまで行かれたのですか?あ、もしかして敵が落としたんですか?」
「正解…。これがそう…」
メルティ先輩が目の前に置いてくれたブロック。
本来なら地下の最下層付近でしか取れない、レアな黒曜石…。
「黒くてツヤツヤしてて硬そうですね」
「アルジェちゃん…その言い方はちがうものを彷彿とさせるからやめて…」
「え…」
あっ…。
「ごめんなさい! メルティ先輩も苦手ですか?」
「平気な人いる…?」
僕も嫌いだからわかる。遭遇したらパニックになるやつ。倒すまで眠れない…。
「何を二人で猥談してるんですか! メルティ先輩、アルジェちゃんにセクハラ禁止ですよ!」
「ピノは何を言ってる…?」
なんの話…?コメント欄も“あー…”ってわかってるっぽい人と、”?“が流れてる。
「メルティ先輩、ピノはほっといていいですから。 そのままそちらのゲートお願いしていいですか?上は私が作ります」
「うん…? 宝石はどうする…?」
「今一番多いのはルビーなのでそれにしますか」
「ん。りょうかい」
メルティ先輩はポンポンッと黒曜石を配置して、床に4✕4で配置して、中心に2✕2の穴ができるように囲む。
「アルジェちゃん、これをブロックの一つに嵌めて…」
渡されたのはルビーの宝石。
「どのブロックでもいいから、黒曜石に使えばいい…」
「わかりました」
言われたようにルビーを手に持ってブロックを叩くように使うと、パキッと音がして、赤い宝石が埋め込まれた。
その瞬間、足元が赤く光りだして…飲み込まれた。




