にじゅーに
ハサミの扱い方は、手に持って毛がもこもこしている動物に向かって使うだけ。
シャキンっと小気味のいい音と共に、もこもこの毛が取れる。当然動物は丸裸みたいになって寒々しいけど、草を食べたりすればまた生えてくるらしい。
倒すとお肉も取れるけど、こっちのが心が痛まない。それに倒すより毛の取れる量が多いから、三人分のベッドに必要な量はすぐに集まった。
コメント欄で何人かがヤンデレ期待してるのは何なの?変な趣味の人がいるなぁ…。
「よしっ、こんなものかな。 せっかくだし、少し探検してく?」
「はいっ! 行きたいです」
一人だと怖いけど、パルム先輩と一緒なら安心。
「近くに深い森があるから、新しいものも取れそうだからね」
パルム先輩の視線の先には、ものすごく大きな樹が密集しているジャングルみたいな景色が広がる。
確か暗い森の中には敵もいるから気をつける必要があったよね。
「敵がいたらどうしますか?」
「任せなって」
パルム先輩は紅く光る剣を装備。ヒヒイロカネの剣…。
「頼もしいです。僕は食料くらいしか…」
「素材集めのつもりだったから手持ちをできるだけ少なくするのは正解だけど、武器の一つくらいは持ってこなきゃだよ?」
「すみません…」
全くそのとおりだね…。斧やつるはしは持ってきてるけど…。
現地で最低限の剣を作ろう。
「謝らなくていいから。ほら、ちゃんとアルジェちゃんのも持ってきてる!」
パルム先輩はそう言うと今持っていた剣を投げてくれた。
「ありがとうございます! 強そうですけど、なんだか怪しい剣ですよね、これ…」
「色のせいだね〜。強さは折り紙付きだから」
強い武器を持つと、自分が強くなったような気がしてしまうのは危ないなぁ。調子に乗らないよう気をつけなきゃ。
「あ…」
「どしたー?」
「いえ、強い武器を持つと自分まで強くなったような気がしてしまって、それで少しわかってしてしまったんです」
「うん?」
「メルティ先輩が武器を持つと、豹変する理由が…」
「ああ! 確かに良い武器になればなるほど暴走するからね」
コメント欄を見ると公然の事実だったらしく、”今更?“って言われてる…。
「ただ、メルティ先輩の場合は本人のプレイヤースキルも高いから、武器だけに依存はしてないけどね」
「ですね。実際に守っていただいてよくわかりましたし…」
そんな会話をしながら森へ踏み込む。
まだ昼間なのに、森へ一歩はいると真っ暗に近く、パルム先輩のトーチ頼り。僕もすぐに使えるようにしておこう。
「あまり深くは入らないけど、はぐれないようにね」
「ここではぐれたら帰れる気がしません…」
「実際にそうなりかねないから本当に気をつけてね」
お互いが見える距離で、この森でしか手に入らない木を切り倒したり、ベリーの実を採集したり…。
「ここの木は色が少し暗めだから、建築でもアクセントになるし、道具類にしても他の木製の物より少し丈夫で…」
「パルム先輩、その先穴です!」
「えっ…!」
説明してくれていたパルム先輩の進む先に深い穴があったのに気がついて声をかけたけど、間に合わなかった!
「先輩! パルム先輩、大丈夫ですか!」
「なんとかねー」
よかった…。
直ぐに階段を作って上がってきたパルム先輩。
「アルジェちゃん、すごいの見つけたよ!」
「穴の中にですか?」
「うん! 意外と落ちてみるもんだね!」
無事だったからよかったようなものの、ヒヤッとした…。
パルム先輩が登ってくるために作った階段を下ると、少し広い空間が。人工的とでも言えばいいのか、そんな雰囲気。
「稀に見つかるトレジャー部屋でね、ほら、壁際にボックスがあるでしょ?」
暗いからよく見えず、トーチを設置すると部屋全体が照らし出されてパッと見ただけでも四つのボックスが目についた。
「本当にお宝部屋ですね」
「開けていいから何があるか見てみるといいよ」
見つけたのはパルム先輩なのにいいのかな、と思いながらも好奇心には勝てずボックスを開ける。
「あれ…」
「大したものはないでしょ?」
「はい、食べ物とか鉱石が少しあるくらいです」
「本当にお宝があるのは稀だからね」
「これなんだろう…」
「うん?見たことがないものでもあった?」
「はい、先輩も見てください」
コメント欄は盛り上がってるけど、流れが早すぎて目で追えないな…。
「うそ…。これ宝の地図だよ!」
「当たりですか?」
「うん! ここは稀にだけど本当に価値のあるものが出る事もあるからね」
トレジャー部屋のボックスから宝の地図って…。宝を探すための宝を探すみたいでなんだか腑に落ちない。
他のボックスも見てみたけど、僕が分かるのは宝石や作物の種とかくらい。
「うわ〜当たりのものが多いな。こんなの珍しいよ!」
パルム先輩が当たりだというものをまとめてくれたボックスを見てみると、宝の地図を始め、家畜用リードに宝石各種、あとは卵?
「この卵みたいなのは…?」
「ペットが出てくるの。何が出てくるかは運だけどね。動物の場合もあるし、モンスターの場合もあるよ」
「可愛い動物がいいですね」
「モンスターなら戦ってくれるから戦力にはなるけど、ゾンビとかはヤダよね」
「可愛がれる気がしませんね、それ…」
今は特にゾンビとかは遠慮願いたいなぁ。紛らわしいってのもあるし。
「よしっ、せっかくのお宝だし早く持って帰ろうか!」
「はい。お土産ができましたね」
ボックスから回収したものは手分けして二人で持ち、森を出て拠点へ戻る。
帰り途中、行く先に遠くからでももう建築物だとわかるくらいのサイズのものが見えてるけど、あれが拠点でいいんだよね?
「なんだかものすごく巨大なものがありますけど…」
「ピノは建築ガチ勢だから。城くらい作っちゃうよ」
「凄っ…」
「褒めてあげてね。アルジェちゃんに褒められたら喜ぶだろうから」
「は、はい! わかりました」
洋風のお城とでも言えばいいのか、有名なリゾート遊園地にありそうな豪華な城…。
短時間で凄すぎる。
出迎えてくれたピノ先輩に思ったままを伝えたら大喜びされて、マイク越しにバンバン音がしてるのは何!?
「コラ! ピノ、台パンしない! デスク壊したらまた叱られるよ!」
「だって嬉しすぎて! 素直な称賛を貰えたのなんていつぶりだろう…」
「みんな慣れてきたしね〜。ピノなら作って当たり前って空気はあるよね」
「でしょ? アルジェちゃんはそのままでいてね!」
「僕ではこんな素敵な建物は作れませんから、ピノ先輩は本当にすごいです」
「はい、可愛いー。アルジェちゃんの部屋は一番いいところだからね」
それは流石に申し訳ないというか…。
恐縮していたのだけど、案内されたのはまるで幽閉されるような部屋で…。
細い通路でしか行けない、塔の狭い一室。
「あの…ここに僕は住むんですか?」
「うん! ここなら安全だからね…。誰も近づけないよ」
これってつまり監禁されるって事!?
「ピノ、アンタねぇ…守るためとはいえこれはないでしょ!」
「アルジェちゃんを部屋に入れたら、スイッチ押せば通路もなくなって完璧なのに!」
「これは監禁だから! 可哀想でしょ?出られないのは」
「だってまたゾンビがきたりしたら…」
「はいはい、わかったから。 アルジェちゃんもコッチおいで」
「みなさんと一緒にいさせてください…」
監禁されるのは流石に。狭い一室しか見えないなんて実況としても放送事故だよ…。
なのに、コメント欄には結構な数で“閉じ込めておきたい気持ちはわかる”って言われてて、そんなに頼りないかなぁと悲しくなった。
落ち込んでいても仕方ない。頼られるように僕が成らなきゃ。




