じゅーさん
紲さんがマネージャーになって数日。
明日からサバイバルイベントが始まるのだけど、僕は今日から会社に行くことになってる。
と言うのも、ボイストレーニングや、例のフィギュアドールについて打ち合わせがあるから…。
早めに会社に来て、先ずは社長ちゃんに挨拶をしようと思って社長室にお邪魔したのだけど、まさかお客様がみえていたとは…。
普通に招き入れられたのだけど良かったのだろうか。
しかもお客様はフィギュアドールのメーカーさんからお二人の女性がみえてた。
まだ打ち合わせの予定の時間より早いのだけど、どうしたのだろう?
「アルジェちゃん、早く来てくれてちょうど良かったよ! 見て見てこれ!」
興奮気味の社長ちゃんが見せてくれたのは服装からしてアルジェのフィギュアドール…。
顔がまだないのは試作品だからかな?服はちゃんと着てるのに。
「アルジェちゃんのフィギュアドールから、最新のパーツを組み込むことになっててね。すっごいんだよ!」
社長ちゃんに自分のキャラを握られてるのはどう思ったらいいのか…。
ギュッと握りつぶされたらリアルに苦しくなりそうな錯覚に陥る。
「そちら、もう精密機器レベルですから、あまり雑に扱わないでください!」
「なるべく壊れにくくはしてありますが、以前のものより大切に扱ってくださいね!」
メーカーのお二人に叱られるくらいには社長ちゃんが興奮してる。
何がそんなに精密なのだろう?と思ったら、本当にとんでもない代物だった。
のっぺらぼうだと思っていた顔に、アルジェの顔が映し出されたんだから…。
しかもボイスに合わせて表情も変わり、口も動くそう。
まだ僕はボイスの収録をしてないのだけど、サンプルということで、僕の配信の音声からいくつか入ってるって聞かせてもらった。
こうやって自分の声を聞かされるのってかなり恥ずかしい。しかも悲鳴とか咄嗟に出た声とかばかりで、なんの辱めだろう!?
「通常版ですと…万円くらいです。 こちらのフェイスリンクシステムを搭載しているバージョンは凡そ5、6倍くらいの値段になります」
「もう少しなんとかならない? 数は相当数発注するからお願い!」
今すっごい値段が飛び出したよ!?あのフィギュアドール、通常のでもそんなにするんだ…。
完成度すごいもんね、無理もないか。音声システムとかもあるし。
「歴代フィギュアドールにも互換性はもたせられるんだよね?」
「ええ。フェイスリンクシステムを搭載したフェイスパーツの単品販売も致しますし、各キャラごとのフェイスデータも個別に購入可能にする予定です」
「そっちは幾ら?」
「フェイスパーツが…万円、データは…万円ですね」
「うーん…。もう少し下げないと誰でも買えるものにならないね。高すぎると数も売れないよ?」
「…無茶を言われますね。ですがもっともなご意見です。もう少し検討してみます」
「お願い! それでこれはもらっていいの?」
「必ずそう言われると思いましたから。そちらはそのままお収めください」
「ありがと! 後で脱がせて着替えさせよ!」
社長ちゃん!?
暫くして紲さんも社長室に来てくれて、今後の打ち合わせ。
ボイス収録の予定とか色々…。その間、社長ちゃんがアルジェのフィギュアドールでずっと遊んでて、気が散って仕方なかった。
アルジェは空飛ばないからね?ミサイルもついてません!
あくまでもアルジェのフィギュアドールだとしても、目の前で脱がされるのはなんとも言えない複雑な気持ちになるね…。
「アルジェさんにも近々サンプルをお渡し致しますので、感想をお聞かせいただけるとありがたいです」
「はい…」
「本来なら今日お持ちしたものに触れていただいて、少しでも感想を聞かせて頂きたかったのですが…」
「社長ちゃんはもうこちらに渡してくれなさそうですからね。新しいサンプルをお持ちすると必ずああなるのですが…」
「僕も社長ちゃんから、先輩方のフィギュアドールを全部集めていると見せていただきました」
「ええ、各3体は必ず購入してくださってますね」
「3つも!?」
「遊ぶ用、飾る用、保存用ですね。この世界では当たり前ですが馴染みありませんか?」
「初めて聞きました」
幾らになるのか想像しただけで恐ろしい…。さすが社長。
別れ際にフィギュアドールのメーカーさん…ドールズファクトリーという名前らしい。
お二人から名刺をもらい、僕もまさに今、紲さんから受け取った会社支給の名刺を渡したけど、すごく喜ばれた。
フルカラーでキャラのバストトップの絵柄と、名前。
5期生とかのキャラとしての情報しか書かれていない物なのだけどね。
紲さんと一緒に近くの食堂へ行ってお昼ごはんを食べた後は、会社に戻ってボイストレーニング。
トレーニングルームも会社のビル内にあるから、先輩方も自由に利用してるみたい。
僕は紲さんが予約してくれてあったから優先的に見てもらったけど…初めての経験で驚きの連続だった。
此方のボイストレーナーの方も僕の秘密は知っているそう。トレーニングするのには必要だからと社長ちゃんから情報が来てるのだとか。
段々と秘密を知っている人が増えていってるなぁ…。仕方がないのだけど、少し不安。
喉のいたわり方なども教わり、歌の練習もしたけど、こっちはトレーナーの先生が頭を抱える結果に。
僕音痴だからね。ごめんなさい…。
「これは鍛えがいがありますね。私が必ずアルジェさんの歌声を素敵なものにしてみせます!」
「がんばります…」