じゅーに
僕の使わせてもらう部屋には、家電や家具も完備されてるから本当に住めてしまう。
しかも自宅の部屋より広いし…。
こうも広いと落ち着かないけどね。
「アルジェさん、お料理をされるのでしたら買い出し等してきますので言ってくださいね」
「ありがとうございます。でも、ここではあまりしないかと思います。先輩方にキッチンエリアでなにか作ってほしいとお願いされましたから…」
「なるほど…でしたらそちらに色々と揃えておきますね」
「助かります」
イベントの間に一回はなにか作ってーとパルム先輩やピノさん、後は3期生の先輩にも言われたから…。
お母さんに相談して、もうメニューも決めてある。
料理に思いを馳せていたら視線を感じて…。なにやらじーっと僕を見てくる紲さん。なんだろう…。
「社長ちゃんからお話は伺っていますが…本当に? 未だに信じられません」
「えーっと?」
なんの話だろう…。
そのまましばらく考え込んでいた紲さんは、”尚の事しっかりお守りしなくては!“と一人で納得したように頷いていた。
「着替え等もタンスにありますのでご自由にお使いください」
「ええっ!?」
「普段から可愛らしい服を着ておられますがユニセックスのものですよね?」
「はい…合うサイズがあまりないので」
男物は基本、僕には大きいし似合わないから…とこよみが選んでくれてる。
パーカーとかジーンズとか、会社に来る時にも体型がわからないようなものを着てるけど…。
でも…開けたタンスには完全な女性物の服が。
スカートまであるけど!? え…マネージャーさんの紲さんは知ってるんだよね? なんで…。
「三日間泊まり込みになりますと、何処かでスキが生まれないとも限りません。なのでまずは形から入りましょう」
何を言ってるのかちっともわかんない。
「下着はなるべく着やすく、違和感のないものを選んであります」
スカートを履くときはタイツを履いて、ドロワーズやスパッツを履く、とか…。
胸の小さい人用のパットのはいった、スポーツブラとか…。
説明を受けたけど、僕はどこに向かってるの?
だけど紲さんの言うように泊まり込みになると先輩方と過ごす時間も当然増える。
そんな中で普段通りにしていたらバレかねない。 でも、だからって…。
「服の着用等、不明なものがありましたらお尋ねください」
「…ありがとうございます」
改めてタンスの服を見てて気がついたのが、服のセンス。
身近にこういうのを好んで着ている人がいるんだよね…。買い物とかも付き合うから見慣れてるし。
でも、まさかだよね?
うん、きっと気のせい。僕の考え過ぎだね。そうだと言って…。
僕の私室になったという部屋で、紲さんと今後の予定とかのスケジュールを話し合い、会社支給のスマホにすべての予定も転送してもらえた。
今後もなにか予定等あれば逐次更新されていくそう。
大きなイベントは取り敢えず数日後に始まるサバイバルイベントくらい。
他は、元々僕が予定していた個人の配信とか、先輩方との雑談やゲームコラボ。
後はボイストレーニングが予定されてる。
「企業案件もオファーがいくつか来ていますから、そちらも予定が決まり次第ご連絡いたします」
「企業案件ですか…?」
まだ予定の調整中ですが…と前置きをして話してくれたのは、頭が真っ白になるくらいのものだった。
僕でも知ってる大手ファストフードのCMとかの広告関係。
あとは有名なフィギュアドールメーカー…。これはアルジェのフィギュアドールが出るかららしい。
これは僕も知ってる。社長室に飾ってあったから…。
フィギュアドールとは何か…。
これは社長ちゃんが熱く語ってくれたから僕も詳しくなった。
1/10サイズで、凡そ15センチくらいなんだけど、すごく完成度が高い。
ケモノ耳や角のある先輩や、モンスターっ娘もいるから最大のは20センチをこえるものも。
服は布製で当然着替えが可能。髪型は軟質パーツで別の髪型に変えたりとかもできるもので、新衣装とかが出ればそれに合わせて、必ず服と髪型、表情違いの顔パーツもセットになって発売される。
かなり人気のシリーズで、今のところ先輩達のフィギュアドールは全員出てるそう。
最大の特徴はボイス機能がついているところ。デザインを崩さない位置にスイッチがあり、押すとそれぞれのボイスが再生される。
こちらも会社が定期的に販売するボイスパックを購入すると、ドールに追加できる。
このボイスパック、僕も近々収録があるってのは聞いてるし、その為のボイストレーニングの予定も入ってる。これの為だったんだ…。
ボイスパックはパソコンやスマホで聞くだけってのも可能だけど、フィギュアドールに入れるのが一番いい! と社長ちゃん。
「アルジェさんはファンの方から早く出してほしいと相当数の問い合わせが来ていまして、過去最速でのフィギュアドール化です」
「自分のフィギュアドールがでるのって、不思議な感じです…」
「皆さん初めは似たような反応をされますよ。そろそろ試作品が完成するはずですから、それの確認等になります」
「早くないですか? 社長ちゃんからは結構時間がかかると聞いていたのですけど」
「試作品は早いですよ。なにせ元々3Dキャラデータがある上に、今は3Dプリンターもありますから」
ああ…。そういえば、社長ちゃんもプリンターは持ってた。
オリジナルの小物を作ってフィギュアドールに持たせてるって自慢されたっけ…。
その辺りの予定も紲さんが調整してくれるそうなので、僕は基本的に予定に沿って動けばいいみたい。
すごく助かる…。絶対に一人じゃ無理だった…。