じゅー
初コラボから数週間。
ほぼ毎日、誰かしら先輩に誘ってもらい、雑談コラボやゲームコラボもやってみた。
3期生の、ちょうどパスタをご馳走した皆さんからは真っ先に声がかかり、全員と一緒にコラボを果たしたのは、あのパスタの縁があったからかも?
今日は社長ちゃん直々にお呼び出しがあって会社に来ているのだけど、面接の時以上に緊張してるかもしれない。
理由は、僕の同期に当たる5期生の残り二人との顔合わせがあるから…。
僕より二人のが先に契約は済んでいたそうなんだけど、一人は引っ越しに時間がかかり、もう一人はキャラの準備に手間取ってしまったかららしい。
二人とも色をテーマにした名前で、紫からとったヴィオラ。茶色由来のマローネ。
髪色がそれぞれ名前に沿っているのは僕も同じ。
受付で挨拶をして、社長ちゃんの部屋ヘ。
ノックをすると、いつもの元気な返事。
「入っていいよー」
「失礼します…」
週に一回は顔を出していたから多少慣れてはきていたのだけど、やっぱり今日は特別。
因みにひろみ姉さんの所にも週一で顔を出してお世話をしたのはお約束。
社長室内には見たことのない女性が二人。どちらも歳上なのは見たらわかる。
挨拶をしたら二人とも僕より低めな声でびっくりした。
どうやら5期生は全員男の娘設定だそうで…。僕だからそうなった訳ではなかったらしい。
社長ちゃん曰く、僕の場合は完全な女の子キャラでも良かったのだけど、そうすると6期生とかにしなきゃいけなくなるから〜とかなんとか…。
僕は今のキャラが馴染んでるし、こよみがデザインしてくれたんだから文句もない。
それぞれキャラ名での自己紹介をしたのだけど、ヴィオラさんは二十代、マローネさんが十代後半で僕の少し上。
お二人とも優しいし、気さくな方でホッとした。
「因みに私はバツイチだけどよろしくね?」と、ヴィオラさんから爆弾発言。
聞かされたところで僕はよくわからないからコメントに困る…。
「異性関係をこちらに持ち出さないようにね?」
「わかってます。もう恋愛は懲り懲りよ…」
「…私は恋愛したいけどなぁ」
「恋愛に制限はかけないけど、あくまでもプライベートだけにして。仕事に影響が出ないよう気をつけるように」
「はーい」
社長ちゃんと副社長ちゃんがお疲れ気味なのはどうしてだろうか…。
「美咲、アイツらはまだ?」
「そろそろ配信が終わる頃だと思うけど…」
「ピノとエセルはちょっとルーズだから任せて平気か不安になってきた」
「大丈夫よ。あの子達だってもう長いもの」
ピノさんは何度かお会いしてるけど、エセルさんはコラボ以外では初めてだ。
眠そうに話すふわふわネコ獣人さんで、話し方ものーんびりしていて、聞きながら眠れるおやすみ配信とかが有名。
実際、聞きながら横になってると本当に眠くなるくらい、おっとりとした優しい声は癖になる。
ノックと共に入ってきたのはピノさんと、多分エセルさん。
ふくよかな体型がエセルさんを彷彿とさせ、おっとりとした話し方も相まって包容力が凄そうなお姉さん。
「新人二人をそれぞれに面倒見てもらいたいんだけど大丈夫?」
「任せてください!」
「うん〜。ここの説明もしっかりしておくよ〜」
ピノさんは迷わずマローネさんの手をとり部屋を出ていった。
確かにヴィオラさんよりは幼いもんな…。ここしばらくの間で、あの方がロリっ子大好きなヤバい人なのは身を持って実感したし、周知の事実。
「じゃあ貴女は私が案内するね〜。アルジェちゃん、またね〜?」
ひらひら〜と手を降るエセルさんにお辞儀をして見送る。
「はぁ〜…」
「大丈夫かしらね」
「面接の時点でちょっと悩んだんだけど、声は二人とも理想的なんだよ」
「しばらくは様子を見るしかないわね。アルジェちゃんにも迷惑をかけるかもしれないけどごめんね」
「いえ…。せっかくの同期になる方ですから、仲良くしたいです」
「気をつけてね?ヴィオラは前のダンナのせいで男性不信だし、マローネは…ね?」
ね?といわれても…。
「男好きなのよ、彼女。だからバレないよう気をつけてね」
同期に問題があり過ぎでは!?と言っても僕自身も性別を偽っているわけで…。
5期生ヤバいな?
「同期は何かとコラボだったり案件だったり、一緒になる事も多いから心配だわ」
「今からでも分けるか…?でもなぁ…」
お二人の疲れてる原因はこれかぁ。僕も一端を担ってる以上申し訳ない気持ちで一杯になる。
「そんな顔しないで?アルジェちゃんはうちのメンバーからも人気があるし、登録者の増え方も1、2を争う速さだから」
「うむ。純粋で初々しい子はそれだけで価値がある! あとはもう少し個性が出るといいな」
「個性ですか…?」
「わかりやすいので言うのなら、語尾とか話し方。キャラ付けってやつね。今更だけど…」
「うちの場合、個性の強い子が多いから、逆にアルジェちゃんは貴重なんだけどね!」
どうしろというのだろうか…。今更キャラ付けしたところで違和感しかなさそうだけど。
一度こよみにも相談してみるか。なんせママだからね。
その後、いくつか連絡事項と、今後の話をして、ひろみ姉さんの家によって掃除と洗濯、料理の作り置きをして帰宅。
最近は頻繁に寄るからか、ひろみ姉さんの部屋もキレイだから楽なもの。