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イザベラという女

 時はモンスターにダンジョン、魔法に剣、なんでもござれの大冒険者時代。

それゆえ、人々が生きてゆくためには肉体的な強さ、精神的な賢さ、魔法やモノづくりの技術力が必要とされる。王族や貴族は大昔に名を挙げた開拓者や冒険者の子孫で構成され、平民よりも強力な何らかのスキルを持って生まれることが多かった。


ヒトの優劣をにも、生きるにも、なんらかの突出した強さが尊ばれる時代に侯爵令嬢イザベラ・アームストロングは誕生した。

Isabella(イザベラ ) is a bella(イザ ベッラ).と苦しいギャグを言いたくなるほど、彼女は愛らしい赤子だった。


愉快なアームストロング侯爵一家は父母に二人の兄、イザベラ、双子の弟妹の7人で構成されている。

皆イザベラを愛し、イザベラも家族を何より愛し大切にしている。


アームストロング家は、その名の通り元祖のアームがストロングで、代々腕っぷしに縁がある家系だ。

直系から遠縁まで脳筋が多く、どんなにヤンチャな子どもが育とうと「日頃の成果がでているな」と温かく見守ってくれる。

領民たちも、草原でポニーを乗り回す侯爵幼女を見ても、悪ガキ達を引き連れ山籠もりする侯爵少女を見ても、ダンジョンを回り荒稼ぎする侯爵令嬢を見ても、「生きがいい!」と笑顔でイザベラを称えた。


そんなおおらかさがウリのアームストロング領で、寵児イザベラは誰にも止められず自由奔放に育った。

まさに美の女神(ヴィーナス)の皮を被ったじゃじゃ馬。

そんな彼女の座右の銘は「ステゴロ最強」である。


ほとんどの時世で美しさは人々に良い印象を与えるが、残念ながらこの大冒険者時代にそれだけで成り上がるのは不可能に等しいと言うのがこの国の定説だ。


イザベラは成長するにつれ、「美はおまけ」という王国の理に矛盾が生じるほどモテはじめた。


プラチナブロンドの髪に地球を思わせる色の瞳、表情によっては無邪気な少女にも傾国の悪女にも見える整った顔立ち、出るとこは出て締まるとこは締まった体を支えるのは、ドレスでそのラインが隠れるのを泣いて惜しまれるほどの美しい脚。


女性にしては高い身長で動きやすいパンツスタイルでいることも多く、男性だけでなく女性、何なら全人類にモテた。


イザベラが花も恥じらうティーンになるころには、本人だけでなく家族までもが((いい加減そろそろ飽きた))と思うほどモテていた。


しかし、いくらモテまくっても、追われるより追う派のイザベラはいかなる求愛もお断りする。


また、彼女は夢見がちな乙女であり、いつか出会う運命の獲物(おうじさま)の存在を信じていたのだ。

そして、彼女は格好の獲物を確実に得るために、日々、愛の狩人スキルを磨いている。

具体的には、母や妹と胃袋()()()レッスンをしたり、恋の兵法100戦を読んだり、友人らと恋愛小説朗読会を開いたり、兄達とモンスターを狩ったり、弟と回復薬を作ったりだ。


見た目の印象だけで異常なほどモテるイザベラだが、彼女に親しい人たちは皆、彼女の見た目ではなく中身に美点があると言う。

もちろん、その破天荒な性格のことでは無い。

いくら脳筋でおおらかでも、イザベラが規格外であることは全員が承知していた。

イザベラが学園に入学する歳の頃には、彼女と話したことのない貴族にまで見た目と性格のギャップが知れ渡っていた。


しかし不思議なことに、本人も誰も隠しもごまかしもしないイザベラの悪名高い噂をフル無視して、女神の皮に惑わされ寄り付く阿呆が後を絶たない。



現在、イザベラ17歳学生、噓のように求愛され、嘘のような断り方をする。



1人学園へ馬を走らせ登校したイザベラが厩舎から出ると、校庭で待ち構えていた青年から声を掛けられた。


「イザベラ嬢、僕のヴィーナス、たった一日だけでも貴女を独占出来たらどんなに嬉しいだろうか。どうか、哀れな僕の願いを叶えてくれ!」


深緑の髪と黒縁眼鏡が特徴の青年は、イザベラに手を差し出して頭を下げた。

返事のないままイザベラが動く気配を感じた青年は、ゆっくりと顔を上げる。




「えっ、、、、、、。」




まず彼の目に入ったのは、地面に落ちる1つに結われた絹の髪、次にパンツスタイルでも伝わる丸みのある臀部、そして空に向かって真っ直ぐに伸びる脚、目線の高さには靴下に覆われた足首だ。

引きで見ると、そこには樹齢何十年の重みを感じる荘厳な大木が佇んでいる。

ように見える、鍛え抜かれた体幹で数十秒間揺るがずに倒立をするイザベラがいた。


呆気に解放された青年が次の言葉を発する前に、イザベラは姿を消していた。


「、、、狐、白昼夢、、、じゃじゃ馬、、、馬?」


幽鬼のようになった青年が何かぼそぼそと呟きながらその場を後にする。


ちなみに、イザベラが倒立したのには二つの理由があった。

一つは、青年の求愛意喪失のため。

もう一つは、イザベラの護衛らの隙を突くためだ。


実はイザベラ、馬で登校する途中で複数いる護衛を撒いて来たのだ。

彼女は自身の腕試しがしたくなっただけだが、護衛にとっては大目玉の大災難である。

護衛達は青年に足止めを食らうイザベラを捕まえて、彼女に自粛しろと説教&泣きつきをしようと影で構えていた。

それが見えたイザベラは、(授業の前にお説教なぞ聞いてられるか)と思い倒立逃走作戦を決行した。

まんまと術に嵌った護衛たちは、護衛対象の愛すべきじゃじゃ馬娘が遠目でも判るほどのブレのない倒立を見せ、((流石、ステゴロ至上主義))とその筋力に感心してしまい説教チャンスを逃したのだった。

流石、脳筋護衛である。



見事青年も護衛も振り切ったイザベラは、何事もなかったかのように級友と挨拶を交わしHRを迎えた。

護衛達は今度こそ巻かれてなるものかと、学園内の待機場で筋トレを始めた。


イザベラは、小ぶりで強固かつしなやかな筋肉とハリケーンにも負けない体幹を、女性らしい曲線美の下に隠している。

勘の良い方はお気づきかもしれないが、彼女の親しい人たちのいう美点とは、彼女の性格ではなく皮の中身「筋肉」のことである。


しかし、アームストロング領が特異なだけで、何らかの強さが尊ばれる時代でも、イザベラのように己の鍛え抜いた筋肉、そして腕っぷしの強さに自信がある奇天烈な令嬢を好む貴族男性は少ない。

彼女はたまたま圧倒的に容姿が良く、圧倒的にエキセントリックだったため、視覚情報と噂で混乱した貴族男性達にモテるが、ほとんどの脳筋は脳筋にのみ需要があった。


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