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肌に触れて  作者: Naoki
10/11

大人たちの想い

 川村辰巳、川村直の父親は息子と話をした後、庭へ出て煙草を吸っていた。

小さな庭で空に浮かぶきれいな月を見上げて

「ちくしょう」そう、つぶやいた。

月が憎らしかった、夜空に瞬く星達が憎らしかった、世界が、自分が、全てが憎らしく思えた。

小学五年生だ、たった十一歳の子供にいったい自分達大人は何を背負わせようとしているのか。

辰巳は唇を噛む。自分の自慢の息子ははっきりと自分の愛する者を守ると宣言した。

十一歳の子供が誰かを守ると。本当ならあの子はもっと聞き分けがなくても良いのだ。

どうして好きな子と離れなくてはいけないのかと駄々をこねて子供らしい反抗をしてくれて良かった。

むしろ辰巳は心のどこかでそれを期待していた。

直が子供らしく駄々をこね、子供らしく静穂と家出でもしてくれれば良かったのに。

自分の息子は精神的にかなり成長してしまっていた。

それは普通の環境で言えば喜ばしいことなのだろうが直の場合はそうではない。

歪んだ環境の中で、ああやって精神的に成長しなければ生きてはこられなかった息子。

きっとその成長は直のどこかを歪めてしまっている。

息子にそんな環境を押しつけたのはどこのどいつだ。

辰巳は自分の不甲斐無さが悔しかった。

歪んだ世界で息子がやっと手に入れた小さな幸せを守ってやれない自分が憎かった。

何が父親だ、自分にそんな大層なものを名乗る資格などないと思った。

それでも自分は直の父親だ、資格が無くてもそれは変えられない。

本当に、どうすればよいのか分からなかった。

誰かに助けを求めたかった。

それはどうしてもできない願いだったがそれでも息子の笑顔が守られるのであれば自分の何を差し出してもよいと思った。

「あなた」ふいに後ろから声がかかる。

息子の様子を見に行っていた佳苗だった。彼女も母親としていろいろ思うことがあるのだろう。

「直は?」辰巳は夜空を見上げたまま聞いた。

「ベッドには入ったけれど、私がいると泣くこともできないみたいだったから」泣きそうな声で言う。

「そうか」

二人は並んで立ち、ただ空を見上げた。二人は涙がこぼれないように上を向くしかなかった。

自分達には泣くことも許されない、そう思ったから。

「どうしてこんなことになってしまったの」ぽつりとつぶやく佳苗は答えなど出ないことを知っているようだった。

「どうしてだろうな」

辰巳は息子の涙をこれから先、一生忘れられないだろうと思った。


 「ふぅ」溜息をついて髪をかきあげる。

手の中で飲みかけのコーヒーが入ったマグカップをもてあそぶ。

山口友恵は保健室でぼーっとしていた。とっくに下校時刻はすぎていてそとはもう薄暗かった。

今日、静穂が助けてほしいと友恵を頼ってきた。

ロミオとジュリエットを救ってほしいと。

けれど友恵は神父にはなれなかった。偽の毒薬を渡したところであの子達に逃げられる場所はどこにもない。

小学五年生が親元を離れて生きていけるほど世間は甘くなかった。

結局自分は最後まであの子達を助けてやる事などできなかったのだ。

あの子達が卒業するまでこの保健室を守る事でとがんばってきた自分は結局何もしていないのと同じだった。

「先生もがんばるから、あきらめちゃだめよ」そう声をかけた時の静穂の笑顔が思い出される。

心の底から安心しきった笑顔。あの子は本当に私なんかに任せておけば大丈夫だと思っている。

情けなかった。自分はいつから優しさを言い訳にいろんな事から逃げるようになってしまったのか。

今日、直は学校に来なかった。おそらくこれからも来ないだろう。

直の対応は迅速だった。大人であるはずの自分よりも早く、静穂を救う方法を見つけ出し、実行に移していた。

このまま直が静穂に会わなければ、静穂は差別されることはない。

たった十一歳の子供が自分の大切な人を守るためにその身を犠牲にして戦っている。

差別を許してしまっている大人達よりも、何もできなくてただおのれの無力さを嘆いている自分よりも、誰よりも彼は大人だった。きっと静穂は納得しない。

けれど直のとった行動が今、一番確実な方法だ。

それでも直の行動は間違っていると友恵は感じる。そんな解決方法を認めたくはなかった。

「生意気なのよ」友恵はつぶやいた。

子供なら子供らしく誰もが笑って幸せに解決できる、そんなハッピーエンドを望んで喚いていれば良いのだ。

誰がそんな割り切った考えをしろと言った。絶対に認めるもんかと思った。

友恵は今、心の底から怒っていた。けれど一番その怒りをぶつけたいのは結局、他の解決方法を思いつけないでいる自分に対してだった。


大人たちの想い、子供たちはこれから・・・・

次話をご期待ください

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