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わんこ少女キア

引退魔王と小うるさい使用人

作者: リィズ・ブランディシュカ



 俺は元魔王だ。


 しかし合理性をつきつめていった先に、部下の反乱にあって魔王の座を降りる事になった。


 誰かの上に立つ事に嫌気がさした俺は、一人旅をして各地を放浪していたのだが。


 人間の男テッドと知り合って、紆余曲折を経た後に、とある領地の領主をひきうけた。


 また誰かの上に立つのは、不本意だったが、引き受けたからにはできる事はやってやろうと思っている。


 しかし。


 最近問題があった。







「ごっしゅじーん!」


 使用人の一人、キア。


 そいつのうるささに頭を悩ませている。


 奴隷になっていたところを買った後、妙になつかれてしまったのだ。


 俺の屋敷で仕事しているが、最近はそれどころではない。


「今日こそ、あのわんちゃんを飼ってあげでください!」

「だめだ」


 この使用人。


 あつかましい事に、俺にペットを飼えといってくるからだ。


 屋敷の近くで捨てられていたらしい。

 可哀想だとか、親犬がいないから可哀想だとか。


 あれこれ言ってくる。


 そんなの知った事か。


 なぜ俺が助けてやらねばならん。


 けれど、キアは粘り強かった。


「飼ってあげてください! 番犬になりますよ!」

「エサ代の無駄だ。世話をするのは誰だと思っている」

「私が面倒をみますから!」


 話はいつも平行線。


 ペットなんて、無駄な事の代表だろう。


 番犬にならないに決まっている。


 あれは毛並みが良かった。


 飼い主は捨てるまではそれなりに甘やかしていただろう。

 それに、他の人間が近づいてもあまり吠えない。

 だから可能性は高い。


 人間や魔族などの生き物は、ひ弱な生物を愛でるという、そんな無駄を愛するらしい。


 俺がおさめていた魔族もそうだった。


 獣人も。


 理解できなかった。


「この話は終わりだ、さっさと仕事に戻れ」

「えーっ!」







 外に出た俺は日課の領地の見回りをした後、病院を見つめた。


 この領地にしては、規模の大きめな建物だ。


 先代領主テッドのはからいで建てられたもの。


 そこには、病人やけが人が何人もいる。


 弱者など、切り捨てればいい。


 何の利益ももたらさない。


 足をひっぱられるだけだというのに。


 人も、魔族も、なぜそんな弱者と共に生きるのだろうか。


 俺が面倒をみていた部下の中にも、子供のために金を稼いでいるとか、病気の妹のために仕事をしているとかそういう奴等がいた。


 そんなもの、切り捨てれば自分で自由に生きられるはずなのに。







 キアとの不毛なやりとりが続いた、数日後。


 キアがこっそりどこかで面倒を見ていた犬がいなくなったらしい。


 そのままどこかでのたれ死んでくれればと思ったが、キアは見つかるまで探すつもりだった。


 昼の間も、夜の間も、明かりやドッグフードなどの準備をして外を徘徊している。


 今は夜。


 虫も寝る時間だ。


「おい、なぜそこまで犬ごときに目を向ける」

「ひぇっ、ってびっくりした! ご主人だったんですね。ご主人も探しに来てくれたんですか?」

「そんなわけあるか。さっさとさっきの質問に答えろ」

「どうしてって、好きだからです」

「はぁ?」


 疑問に思った俺は、わざわざキアに質問をぶつけたのだが、その答えは予想していなかったものだった。


「好意だと?」


 そんな感情何の役に立つ。


 自分が相手を好きでも、相手がこちらを好きだとはかぎらない。


 好きだと伝えて、何になる。

 同じ気持ちだと嘘を言ってきた相手に利用されるのが目に見えている。


 好意なんて、相手に利用される原因としか思えなかった。


「好きって気持ちは見返りをもとめる事なんてないんですよ。私がご主人の元で仕事をしているように」

「俺はお前を買った人間だ。お前は俺の元で働く義務がある」

「ご主人は難しく考えすぎですっ。私鞭でたたいてくるようないやな人の元では働きたくありませんから。さっさと逃げます」

「勝手な奴だな」


 おそらく奴隷商の事を言っているのだろう。


 わがままな奴だと思った。


 奴隷の境遇はひどいが、そのおかげで死なずにすむ人間がいるだろ。


「私がご主人が恩のある相手だから働いているんじゃないです、ご主人事が好きだから働いてるんです。お仕事以上の事だってしてあげたいと思うんです」


 俺は毎日お前に困らされてるが?


「それは、ご主人が分からず屋だからですよっ」


 俺にはお前の方が分からず屋に見える。


 ため息をついた。


 どうにも理解できない話だ。


 まるで異次元の世界でも覗き込んでいるかのようだ。


 しかしキアはその考えが正しいと信じて疑わないようだった。


「わんわんっ」

「あっ、いました! やりましたよご主人! ありがとうございます! おいでおいでー」

「俺は何もやってないだろ」


 犬と戯れるキアを見て、頭を振る。


 何もしてないのに、どっと疲れた気分だった。


「さっさと帰るぞ。その犬の面倒は他の使用人とでも相談しておくんだな。屋敷に入れる時はちゃんと体を洗っておけ。俺はいっさいメンドウなど見ない」

「それって! ありがとうございます!」







 その日からキアが面倒を見るようになった犬は、予想通り番犬にはならなかった。


 前に見た時には、人慣れしてるようだったから、警戒心などゼロなのだろう。


 俺はどうしてあんな事をいってしまったのだろうか。


 後悔しつつも、心のどこかでキアが言った言葉の意味を知りたいと思っていたのだった。





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