就寝というよりも終身
大きくて太い女の子のソックスとガーターで盛り上がった肉を押すのが好きです。
衣食住はひとまずの確認を終えて、さて今日も疲れたし寝るかと思ってきたころ、
じゃあ、どう寝るのだという致命的な問題が振ってきた。
「家主様の寝台は大きいですが、家主様が寝ると、それだけでいっぱいになりますね」
まぁ、シングルベッドだし当然でしかない。ちょうど横幅と身長が同じくらいの彼女なら、5人位は寝れそうだが。
仮に一緒に寝るとするならば、私としては女性が一緒に寝るのはうれしいくらいだ。しかし致命的な問題点がある、私はあまり寝相がよい方ではない、何度も寝返りを打つタイプだ。
「ええ、しかしソファーすら無いですからねぇ」
もしこのお姫様が、普通サイズのお姫様なら、なんとかだまくらかして同じベッドに寝る事なんて考えもしたが、今この自分の胸元に届くかどうか程までしか身長がない彼女を見ると、むしろ恐怖が先に来る。潰したら死ぬんじゃないかというそれだ。
「姫様がベッドをお使いくださいな、自分は椅子で寝ます」
「そんな!」
ゲーミングチェアで、ほぼフラットまでリクライニングするので、たまに深酒した日などは座って寝ている。たった2歩のベッドに行くのが面倒になるとやってしまうのだ。
「それでしたら私が、そちらの椅子で」
「……少し斜めですし、狭いですよ?」
「小さめの寝台くらいです。私から見ると」
言っていることはもっともなのだが……まあ
しかしながら、姫様を椅子で寝かせて、自分はベッドというのは。
あまりにも倒錯的な、プレイ的な趣すらある気もしてくる。少なくとも男らしくはない。
しかし来客用の布団などない我が家では仕方がない。
「せめてこれくらいは」
「まぁ、とても大きいクッションですね」
高さ160cmの無地のクッションである、いわゆる『標準規格』であり『カバー』は最近つけてなかったので、問題がなかったものだ。少し埃っぽいかもしれないが、柔らかさは十分になるだろう。
それと毛布は重いだろうと考えバスタオルと、寒い時様にと冬物のダウンを渡す。
「いろいろありますのね」
「まぁ、そういう時代なもので」
限界までたおした椅子に抱きまくらを敷いて、その上に寝ている姫様を横目に私もベッドに入る。
疲れてしまったし、さっさと寝るべきだろう。
電気を消すといった割には、煌々と丸いオレンジの光が降り注ぐ部屋。夜目の利く彼女からすると、本も読めそうな程度には明るいが、確かにさっきよりは暗くなった。
締まりかけの窓掛けの隙間から外を見れば、街灯やら商店やらの明かりや、道の真ん中の赤や青になる光。そして何より、馬車より大きく速い車と呼ばれるらしい乗り物が行きかう。随分と遠いところに来たのだと思うが、案の定里心などわいてこない。
今彼女の後ろにいるのは、まるで巨大な獣。
いや、それはまるでではなく、事実そのままの意味で巨大で獣でもある。
彼女は本日より同居人となった、その巨大な男の寝息が不規則かつ鼾をかくようになったのを確認してから瞳を開けた。意識はさえている。体はまだ疲れているが、激動すぎる一日のせいで、まだ眠りにつけないでいる。
「ともかく、なんとか当座の家は確保できました」
小さく、自分にだけ聞こえるような大きさでつぶやいた。彼女のもはやただ思考をするのとおなじ程度のことだが、考えをまとめる際にする癖だった。
たった一日だ。昨日の今頃には何も知らないで寝床に入っていた彼女が、暴動により城から逃げる羽目となり、多くの部下を犠牲にしながら、奇跡的にここまで逃げてこれた。
「ああ、生きてるって最高ですね」
彼女のために多くの金と血が使われた。それは王女である以上当たり前で、それでいて至極不自然ではあった。そしてそれを当然のように受け取っていた彼女もまた。
「面倒な見張りの騎士も自然にいなくなったのは幸運でした、これで誰にも見られることはないですもの」
彼女は、つい数時間前に浮かべて、忠臣達の忠義を慈しみ悲しむお姫様の顔ではなく。ただただ、いたずらが幸運にも成功した子供のような笑顔でそういった。
別に、それは彼女が偽悪的ないし、偽善的に振る舞っているというわけではない。騎士が死んだことも、民に追われたこともひどく悲しかったし、辛くはあった。しかしながらそれ以上に彼女を動かす感動があった。
そう、彼女はただ、この場に自分が生きていることを喜んでいるのだ。
「正直、国とか滅びたら困るのは、生きていくのが困るからですし」
犠牲になった臣下が聞いたら怒るだろうか、悲しむだろうか。そんな慈悲のかけらもないことを言いながら彼女は寝返りを打つ。
この見知らぬ部屋で意識を取り戻して、周りを探った時に覚えた恐怖。氷柱を背中に当てられたような、衝撃と違和感だった。
全く見知らぬ物が多く並んでいる上に、椅子も机も非常に大きい。混乱する頭で外につながるであろうドアを開けようにもノブの位置は高い上に、『重くて』びくともせず。仕方なく窓から外を覗き見れば、巨人が歩いているのだ。
恐怖は混乱となり、その場にへたり込むように座ると、ザラザラした床に落ちていた質の良い紙に書かれた、現実そのものの風景を切り取ったような絵と文字の羅列。
見たことのない文字と羅列だが、何故か不思議と『読むことができた』地域新聞という情報紙。カラフルな何かしらの商店の広告、家を販売しているという光沢すら持ったツルツルと滑らかな紙。
それらに目を通せば、嫌でもわかった。ここは神話に残っているような、異なる世界なのだと。
食事の跡とみれるものが落ちているために、この家には住人がいるのだろう。だが、それに気づいた時点では誰も今は居ない。どうするべきか悩んでいると、開かなかった扉がガチャリと音を立てる。慌てて立ち上がり、覚悟を決めて巨人の前に躍り出て────
彼女は無事に今日の寝床を手に入れたのである。
「まるでおとぎ話の奇跡です」
いびきを掻いて下品に眠りこけている男をみて、思い返すのは先程までの会話だ。
亡国の姫君ということを全面に出して、何もわからないので不安だと、そう下から覗き込めば。驚くほどあっさりと、この部屋への逗留から、食事まで面倒を見てくれることになったのだ。
王族として、様々な腹に一どころか二も三物を抱える者と会うことも多かった身からすれば、あまりに素直でその辺の街にいる青年のようだった。事実そうなのだろう。これだけ装飾や書物。人形や魔道具に囲まれているのが、この街の普通なのであろう。
「しかし、もしその気が変われば」
それが少なからず相手の良心だけによるものではないことはわかっている。むしろわかりやすいぐらいに視線やら仕草を感じた。隠し方も下手なので、あまり女性経験がないか、隠すということを気にしていないのであろう。
部屋を見渡せば、扇情的な格好をした裸婦画に近い、申し訳程度に局部を隠した女性の絵や、体の線を見せつけるような立ち姿の精巧な人形が飾ってある。それらは全体的に臀部や胸部が極端に大きく描かれつくられている。
侍女や教育係から嫌というほど聞いた、わかりやすい男の好みというものだ。
そうすれば、今後誘惑する上で、自分の物では『かさ』が足りないよう気もするが、どちらにせよそれは最終手段だ。
やはり少しだけきつい、胸元の簡素な下着を整えながらため息をつく。
親ほど年の離れていた、縁談が持ち上がっていたあの男も、そういう欲望を隠そうとしなかったが、それはまた別の理由であろうし。
そして、この巨大な獣とは、力の差が歴然なんてものでは言い表らせないほどの絶対であることはわかる。とても大きい金属でできた寝台を、片手で持ち上げながら下の袋から衣服を取り出していたし、そもそも扉ですらあんなに重いのだ(彼女は知らないが立て付けが悪いだけである)。
つまり、力では絶対敵わず、なにかあった時の対処は必要であった。
この寝床に入るときも、先程彼が入浴中に調理場の引き出しより拝借した、彼女の感覚だと包丁であるカバー付きの果物ナイフを胸元より取り出して、クッションの下に入れてから横になった。
あえて背を向けて目をつむり、聴覚に意識を集中していたのである。
しかし何もなかった。無理やり手籠にするというのが趣味ではないのであろうか? とも思ったが論じても意味のないことだ。
結果的に彼女が得たもので総じて見れば、運が良く都合が良い人と会うことができたのであろう。
それでもこれが続くかはわからない。何よりも情報を集める必要がある。彼がいる間は直接聞いて、居ない時はまずは手近な書籍からか。軽く聞けば、殆どは娯楽目的の物語だというが。物語というのは下地に教訓や文化があるものだ、きっと何かに役に立つであろう。
そして、何よりもこの家に来れてよかったこと。それは
「日中はほとんど誰もいない部屋で、好きなだけのんびりできる、最高ですね。夢にまで見た楽隠居です」
ゴロゴロしていたい、寝台からでたくない。ドレスなんて面倒で、軽い下着だけつけていたいし。
暑い日はその格好のままで窓際で風にあたっていたい。
背筋を伸ばして微笑を浮かべて歩くなんて疲れるだけだし、自分のペースでノロノロダラダラ歩くほうが楽だし、逆に急いでいるときは走りたい。
ニコニコ笑いながら嫌いな人と話すなんてしたくない。好ましい人と気が向いたら楽しい話だけ聞いて、侍女の噂話も話半分程度に聞きたい。お説教なんて更に半分もいらない。
長いだけで、難しくてよくわからない、どこかの貴族のお抱えの劇団の高尚な悲劇より、庶民向けの大衆娯楽な喜劇の方が楽しい。
「もう、そういうのに付き合う必要はありませんよね?」
国防の関係から、遠方のいくつかの強国に良い返事をしながら、確約はせず。あえて噂は流せど正式な婚約者が作られず。しかし、その美貌を勲章のように喧伝されて、何とか国を保たせていた。
八方手を尽くしていた父には頭が下がるが、その勲章からしたらたまったものじゃない。
しかし、その義務を背負う生まれと育ちと、何より血税を注がれているのはわかったので、渋々ながら、悲観的に従っていたのが今までの彼女だ。
そして、行き遅れギリギリまで残された結果、値引きもされそうになったのだから。捕まっていれば料金は踏み倒されていたはずだ。
ここにはそんなものはないのだろう、同じ年位に『見える』彼がまだ婚姻を結んでいないのだから。
そう彼女はただ、自堕落に好きに暮らしたいだけの、そんな年頃の人でしかないのだから。
そのためには何よりも、家主の機嫌を上手いこと取るべきで、それは亡国の健気なお姫様の顔と、健全に育った肢体を使って行くつもりが、彼女にはあった。
なにせ、本棚には無数の本があり、それがほぼ全て娯楽小説だと彼は言っていたのだ。
それでいて、あまり本は持たない方だとも。
先程飲んだコーヒーとやらは苦くなれない味はしたものの、驚くほどのコクと深みのあり良い香りのものだった。
お茶も緑や茶色のものがたくさんあるとも言っていたし、ワインもあるという。
他にも強い酒や甘い酒も多種多様に子供の駄賃ほどから、歩いていける商店で買えると。
食事だって、正直に言えば、少し味が濃く、脂も多かったが。サラリーマンの男性が好んでいる味付けだという。
もっと女性向けのものもあれば、なんと海の幸も山の幸も取れる島国だというし、果物はかなり甘く、砂糖菓子に関してはある意味世界最高峰のものが揃っているとも。
姫に生まれて、籠の鳥とまでは行かないが、不自由さと『ある悩み』もあった彼女は、楽隠居が夢だった。
どこか山奥の湖の横にある小屋で、庭においた安楽椅子に揺られながら風と日差しを感じつつ、うたた寝をしたり、終わること無い手芸をしたり、時には楽器を奏詩でも歌いながら過ごす。愛玩動物もいれば尚良し。
そんな縛られない生活を夢見ていた彼女からして、この国でこんなにも都合の良い相手のところに来れたのは、まさに僥倖だった。
「ああもう、眠いですね」
そんな幸せな生活を夢見て、彼女は微睡むのであった。
全ては幸せな隠居生活のために、上手く家主に媚を売れるように。