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キレイ系お姫様が俺の部屋に来たが縮尺がおかしい  作者: HIGU
後日談

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13/13

オムニバス2

実は面倒くさい女の子が好きです。

「…やはり私って、あまり姫っぽくないのでしょうか?」


「突然どうしましたか?」


ある日の夕食後ののんびりとした時間帯に、突然姫様はそんなことを言い始めた。


「紛うことなきお姫様だと思いますが」


少なくとも、彼女以上の姫、というよりも彼女以外の姫の謁見の栄誉を賜ったことはない。そういう意味で彼女こそが姫のデファクトスタンダードである。


「家主様はそう言ってくださってますが」


彼女が見せてきたのは、いつの間にか持っていた、タブレットの画面だ。どうやら何かしらのスクリーンショットのようだが。


「私の配信で、結構な数の方がコメントをくださるのですが」


「はぁ」


そういえばそんなことをやっていたなぁという感じだが、まぁ何か気になることがあるのであろう。


《お姫様っぽくない話し方》

《ですわがたりないですわ》

《設定の割に口調が凡庸すぎですわ》



「といったコメントが多いのです」


「なるほど」



言われてみれば、姫様は、ですわーを語尾につける話し方ではない。普通の敬語キャラだ。どちらかと言えば、ですね。位は言うが、それは普通だし、そもそも最初は何かしらの翻訳がかかっていたはずだから、深く考えるのはよすとしても。


確かにお嬢様、お姫様といえば【ですわ】というのは、わかりやすい属性ではあるのだろう。しかし声を大にして言いたい。


「そもそも、お姫様であることを売りにするのならともかく、普通に話してるだけでこんなにかわいいんですよ? 日本語話してるだけで人気取れるのでは」


「あら、ありがとうございます」


そう、翻訳がどうなってるとかそういうのはあったが、姫様はもうしっかり日本語を覚えている。元の言葉を使っても日本語を使っても会話できますと本人が言っていたくらいなのだから。私的にはそのアウトプットの差を感知できないのだけど。

とにかく、普通にしてるだけで絶対人気は出るはずだろう。


「仰る通りですが、それでも他人からの評価は気になるものでしょう?」


「その気持はわかりはしますが」


しかし、それって、姫様はお姫様として見られたいという事なのだろうか? 何か違和感があるな、それ。


「では姫様は、お姫様として扱われたいという事ですか?」


「そうではないのです、家主様」


にっこりと笑って、いつの間にかというよりも私の視線がタブレットに向いている間に、隣に来ていた姫様は笑顔で口を開くそう言ってくる。



「私の外見的に、この国の人間ではないことはすぐにわかりますので。そういった世間知らずで賢いお姫様。そんなキャラ付けをしているだけです」


「冷静に考えてすげぇことやってますね」


小アジア系っぽい顔つきの金髪女性が、お姫様のなりきりでゲーム実況。なんだろう、要素としては強いけど、合わさった結果地雷臭がしている。

スタイリッシュゾンビ退治ガンカタアクションサバイバルみたいな。あぁ、混ぜちゃったか……みたいな。


「それで相談なんですけど、どういう私が良いと思いますか?」


「どうって、いわれましても」


姫様は姫様だからなぁとしか言いようがない。あまり配信者文化に明るいわけでもないから、どういったキャラが受けるのかもよくわからないし。


わからない以上答えようがない


「いえ。家主様がどういった私がよいですか。それを聞いております」


「えーっと、姫様がどういうキャラがよいかという事ですか?」


少し混乱してきた。

つまりは、まずキャラを固めるために、意見を参考にしたいという事か?

姫様は姫様であり、それだけでいいと思うのだが。

「聡明で、計算高くて、なのにたまに抜けてて。やりたいことに正直だけど上手いことそれを隠したりしてて。そんな姫様でいいと思いますよ。」なんて言えるわけもないので、


「やっぱりキレイ系ですし、お姉さんキャラみたいなのがいいんじゃないでしょうか?」


「お姉さんですか?」


「ええ、はい」


ママキャラやるほどの外見的オーラみたいのは出てない、もちろん比率サイズでいえば十分できる母性はお持ちだろうけれど。


「なるほど、お姉ちゃんが好きだという事ですね」


まあ、人類皆お姉さんは好きだろうから間違っていないであろう。私は強くそう思う。姉が嫌いなやつなど居ない。



「他には、どういった私がよいかと思われますか?」


「えぇ? そうですね……うーんそうですねぇ……シスターとか……?」



結局これらの質問の意図は翌日の夜分かった。

新しいことをやってみたいのなら、そう聞いてくれればよいのに。

そう思ったけど、そこが彼女らしくていじらしいななんて。そう余裕をもって思えるように慣れた私自身に、私は苦笑するのだった。
















包み隠さずいえば、家主様のことが、彼が好きだ。

彼女は、内心を思うと、逡巡の時間こそあれど、その言葉を確定させてしまえば、偽りがないことはしっかりと自覚している。


一緒にいるときのこちらに常に向けてくる視線が。我儘を言った時の困ったように笑う気の抜けた表情が。こちらが油断を見せれば、面白いくらいにそこに視線を誘導される単純さが。

どこがといえばいくらでも上がってくる。だが、もっとも大きいところでいえば、それは彼のあり方だった。


彼女は、姫であり、人でなしだがそれでも一般的な人間の感覚というものを頭で理解している。彼女自身がどれだけの吹っ掛けた条件を彼に向けて提示したかも自覚はある。

彼がその為に、それなり以上に骨を砕いていることも知っている。


文句を口に出すこともなく、ただこちらの我儘を聞いている。不健全な関係ではある。仮に姫がそこいらにいる年頃のおなごであれば、これだけこちらに貢ぐだけような男に興味を惹かれることはなかったであろう。


さんざ都合よく搾り取って、あとは距離をとってしまう。それ程までに愚かだとしか言えない。愚直、ただただ愚かしい行いでしかなかった。


それ自体は、彼の善性と人に良く見られたいという自己顕示欲からなるもので。身近に親しい人間がいなかった彼のその欲望が先走ったというところもある。

しかし、大部分においては、ただ、姫様が好ましい外見だったから。


それだけで行われたものだ。


不当な契約を結んだことに罪悪感はない。得てしてそういうものだ。しかし、思うところはあるのだ。この歪な関係において、掛け値なしにこちらに捧げてくる彼は、彼女からしたら眩しかった。


彼はとても幼稚で単純で、なにより一途だった。

将来の展望を諦めていながら、毎日を繋ぎ。決定的な破綻が舞い込んだ夜の後に、この甘い水は劇薬だった。


乾いた砂漠に水を撒く。まさにその通り彼女は彼から与えられたものに対して、何も返すことはなった。しかしそれを逃げ場もなく受け続けた彼女には、たっぷりと。彼の献身を注がれてしまった。


身分としての姫であったら、その献身のおかげで浮いたリソースで別の男の本命にでも遊びに行けばよかったであろう。

彼と同じ世界の市井の女子ならば、適度に距離取りつつ彼氏が出来たら捨てるための距離感があれば放置でいいだろう。


奇しくも、彼女はただ受け取ったものを返すことはなく、逃がすこともなかった。


毎日神に祈るかごとく、見返りを求めつつも本心では諦めに似た。そうまさに祈りだ。そのように彼女へとささげた、やさしさという献身。


日に日に積もれば毒となる。


左団扇が出来るほどの献上になるほどではなくとも、どこまでもどこまでも自身が持続可能な生活を送れる分以外、全ての時間も金も物も出してくる。


契約だのなんなのとかこつけて躰を許したのも、そこに気味悪さがあったからというのは否定できない。


無理ない程度の献上ならば、表面上は笑いつつ刈り取るときを見定めて動いたであろう。身を亡ぼすほどの狂気じみた献身であれば、悪魔のように嘲笑って枯れるまで絞ればいい。


だが、彼が差し出してきたのは、ずっと一緒にいられるために、楽しんで生きるためにという。そういった類のもので。

ラブやファナティックではなく、アガペーに近い物だった。



体の関係になってからも、溺れることなく、ただこちらを個の存在として扱い、そのままより良い生活にすると努力を始めるだけで。自身の内発的なプライドをへし折られたという怒りから、思わず自身に興味を向けようと行動してみれば、何のことはない。

こちらと合法的に暮らせるようにするために動いていただけだった。


そこに彼からの愛はあった。だが、しかし結局のところ。


「家主様は【姫様】()が好きなだけ」


そう、彼女はあまりにも自分を着飾りすぎている。

彼から好ましく思われるないし、不快に思われないような言動、所作。何を見せて何を隠すかを常に考えてしまっている。そんな都合の良いお姫様であって。それでいて得られているのが、彼からの外見的な要因に起因する好意だ。

そう、家主は、あくまで姫が美しい姫だからここまで協力的だった。体つきも髪も顔だちも。全てが番い相手として見て魅力的だから、彼はこちらに優しかったのだ。


それは仕方がないかもしれない。家事などは彼に任せっきりで、そもそもの目的が一人で気ままな隠居生活であった彼女は、今更彼に好かれるために行動が出来なかった。


いくら人より老化が遅い王族とはいえ、不変ではない。

老いて魅力が損なわれれば、そのまま彼の与えるものは目減りしていくであろう。

それに気が付いた時の彼女の胸中は、なんという計略かという恐怖と怒りだった。



今更、そこいらの町娘のように出会っていればなんて。そう思ってしまうのは浅ましいだろうか? 隣に引っ越してきたどこかの国のお姫様だったら、もっと話は単純であったのか?


関係構築はギブアンドテイクの繰り返しで紡がれるもので、なればただ可愛い美しい彼女自身しか渡していなかった以上、既に趨勢は決している。


極論、彼にとって彼女は、肌触りの良い高級な毛皮のアクセサリーと大差はないのだ。




彼は鋭いわけではないが、決して鈍いわけでもない。彼女が彼のことを好きだと言ってそれが嘘ではないことはきっと伝わっているはずだ。

だが、こんなにも心が焦げ付くほどにあなたのことを思っている。そうなってしまっているというのを、きっと生涯わかってはくれないのだろう。彼はそれだけのことをしてしまったのだ。


囚われの姫は救いだされるわけではなかったが。自由と怠惰を覚えさせられた。もう抜け出すことはできない。


あなたが私だけのものになるのならば、生涯私だけを見て、私を欲するのならば、何だって、そうなんだって受け入れる。

私のことをママと呼びながら胸に縋り付いても、笑ってあやしましょう。

他の醜い男に抱かれてその感想を彼の前で諳んじながら抱きたいのならば、抱かれてきましょう。

この肌に焼き印やみみずばれ、青あざを作りたいというのならば喜んで受け入れましょう。


それであなたが私だけのものになって、私以外見ないのならば。私が彼の物になって、もう逃さないと言ってくれるのならば。


衣食住を握った負い目で、美姫を運良く手に入れた。そんなあなたの心の棘を除いて。

冴えない青年の優しさにほだされてしまったお姫様になれるのならば。


神にだって祈りましょう。


そう、外部的要因に頼るほどに弱ってしまっている彼女は、全く気づけ無い。

ほんの少しだけ、素直になれればいいのを気づけない。


「明日のお休みは、ご一緒したいです。家主様」


しかしながら、疲れて寝てしまっている家主の部屋に面する壁に向かって、彼女はそういうのだった。


そんな晩夏のひと時。























私には、今一緒に暮らしている人がいる。男性で寝室は別だけれども。

年は少しばかり上のようだけれど、この国の人間は若く見えるので、最初に聞いたときは驚いた。


彼にはいくつも隠し事をしている。

生まれのことも、逃避行の際何人の部下を騎士を侍女を見殺しにしたことも。

彼の部屋にマイクを仕掛けたことも。

出会った頃は何度か殺すことも考えたことも。

出会った瞬間に最後のなけなしの魔力で魅了をかけてみたが不発だったことも。

いつからか、好きになってしまったことも。

本当はあなたに家事をしないでだらけてる私を叱って欲しいことも。

首輪にリード、手錠に縄で部屋に縛って、飼って欲しいことも。


本当にたくさん言えないことがある。

そもそも最初はこんな気持ちにはならなかった。

良い寝床をよい使用人と一緒に手に入れた。そうだったはずだ。


でも、毎日甲斐甲斐しく世話をされて。何かするときにこっちの希望を聞いてから考えてくれて。こっちの意思を無視するときは、わかりやすく私の為で。


本当はあなたと思いが通じてからも不安でいっぱいなこと。


ただ、自由にのんびり毎日過ごしたいって、私がいつかあなたに言った夢は本当だけども。本当はお姫様として優雅で自堕落に我儘に過ごしたいの。


でもそれはできないから、奇跡が重なってうまいこと一人で国から逃げれたら、何てところから始まった妥協の夢だったの。


いっつも私はそうで。もっともっと甘えて、めちゃくちゃにして、私を好きにしていい。でも優しいあなたはこれ以上私を束縛したがらないから。今の関係が壊れるのが嫌だから、いたずら気なお姫様を続けていること。


いっぱいいっぱい、本当は打ち明けたいことはある。


でも、言えない。あなたは優しいから。きっと言ったところで笑ってくれるから。


どう考えても頭のおかしい女でも受け入れてくれるのは、そういうものなら仕方ないからになっちゃうから。


ありのままの自分を見て貴方に妥協されるのならば、私が今の自分で妥協した方がいいの。


本当はもっとスラっとして、顔の彫りが深く激しくて。淡白だけど時々餌をくれるような、どこかの王子様の第2夫人位に嫁いで。

適度に大事にされつつ、政略結婚の正妻との冷えた関係を後目に、いい感じの関係をつくれればよかった。

そう考えてたから、男の趣味はそういう自信満々な俺様系イケメンとこっちの世界では言う王子様だった。


あなたはまるで反対だけど。自信なさげで、格好良くなくて。背は……私から見たら合格点。でもオラオラ感もイケイケ感もなくて。女の子の扱いもへたっぴで。


だけど、からかったらこんなにも面白いの。

本当はからかう度に、内心ですごくドキドキしてるの。


慣れないことしてるなって、思ってるの。楽しいけど、すこし恥ずかしいなって思ってるの。

でも、こういうお姫様な感じがあなたが好きだと思ったから続けてるの。今更言えるわけがないけれど。


どっかで気づいて、こっちの私の方が良いって、言ってくれないかそう思ってる。





















「とかなんとかいってたけど、悪戯好きなのは割と素だったよね」


「もう、からかわないでください、お父さん」



そんな何時かの未来があるかもしれない。


問題提起で答え合わせ。

ただし、解釈はおまかせします。

彼女視点が多い後日談では、だいぶ彼女の面倒臭さが出ているかなと。






余談ですが

以前会員登録限定というものがありましたが、ハーメルン限定でちょっとだけ追加話があります。

作者ページ活動報告に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです、 良い物語をありがとうございました。
[良い点] めちゃくちゃ面白かったです!!!!! めんどくさい女の子が好き(声でか主張) [一言] これからも執筆頑張ってください!応援しています!
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