第十四話 再会
何やら騒々しい。
意識が戻り薄目を開けたシロのぼやけた視界に映ったのは、生い茂る木々の間で蠢く何か大きなもの――トロちゃん(人間)が、ドラゴンの鼻先にしがみついて、小さな拳で殴りつけている光景だった。
超大型のドラゴンはリヴァイアによって地に落とされていた。トロちゃんが戦っている(?)のは、それと比べれば随分小ぶり、といっても村の水車よりは大きく、小柄な青年のトロちゃん(丸腰)に勝てる相手とは思えなかった。
トロちゃんは、シロが見たこともない激情に駆られ、声の限りに叫んでいる。
「にんげんっていうのはー、ちちゃくて弱くて、おまけに目と鼻と口の間が短くて見た目がオモシロイけどー、すぐ壊れちゃうんだー。ダイジにしないと、いけないんだぞー。こんなちっちゃいヒトをひどい目にあわせるなんて、このジャアクなドラゴンめー」
夢中で喚き散らすトロちゃんの拳が振り下ろされるたび、鈍く重い音と共に鱗にひびが入る。そして、トロちゃんの拳は朱に染まっていく。
どうやら、自分がもはやトロールではなく人間、しかも成人としては小柄な部類に属する姿になっていることを失念しているらしいと理解すると同時に、シロはあちこち軋む体を地面から引き剥がした。岩石のような顔のトロールの友からずっと「オモシロイ」顔だと思われていたことは不問に付した。
あんなか細い肉体でトロールの怪力を発揮していたら、壊れてしまう。
「あ、いけません、聖人様!」
聞き覚えのある女性の声を無視し、肩に触れた指先を振り払った。それは、あまり思い出したくない部類に属する記憶だったし、今気にしている暇はなかった。
「トロちゃん、やめるんだ!」
子供のような小柄な体を振り落とそうと、木々の間で窮屈そうに長い首を振り回していたドラゴンが、無謀にも自分に向かってくる別のヒトの姿を捉えたその途端、全身の鱗が逆立った。
ドラゴンに無謀な攻撃を加えていたロちゃんの手が異変を察知して一瞬止まった。
重く垂れこめた空気を切り裂くような叫び声をあげ、ドラゴンは己の頭部を近くの大木に叩きつけた。
大木は太い幹を軋ませ大量の枝や葉っぱを雨のように降らせたが、倒れなかった。しかし激突の衝撃でトロちゃんの体は振り落とされ、ごろごろ転がって動かなくなった。
自身も相当の衝撃を受けたはずのドラゴンは、自由になった頭部を軽く揺らしながら、シロを正面から見据えた。
「トロちゃん!」
反射的に、吹き飛ばされた友人に駆け寄ろうとしていたシロの足が止まった。感情を示さない金の瞳に射すくめられたかのように。
薄暗い森の中で丸く広がった黒い瞳孔が近づいてくる。
その闇の中に吸い込まれる
魂が
以前にもこの瞳に危うくからめとられそうになったことをシロは思い出した――いや、思い出すよりも早く、口を突いて出た名前。
「テキサ」
大きく開いた口の中に、鋭い歯が三重に並んでいるのが見えた。




