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竜を喰らう:悪食の魔女 “ドラゴン・イーター” は忌み嫌われる  作者: 春泥
第二章 魔都キンシャチで正直者は女に溺れる?
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第三話 ちんちこちんな女

 古都キンシャチにおける活動の本格始動第一日目、ドラゴンがヌガキヤ村に飛来してから四日目にあたる。

 奉公人のキから渡された弁当の包みとその他諸々を持ち、シロは徒歩ででかけることにした。既に店頭であれこれ忙しそうに奉公人に指示しているナカさんに軽く頭を下げて、ハッチョ卸売り店キンシャチ支店を後にした。昨晩遅くに到着した時には気が付かなかったが、奉公人キ曰く、支店の隣は直営食堂として、ナガミ村の郷土料理(殆どがハッチョベース)を提供しいるとのこと。その名はヤマトモ屋。昼近い今、食堂は既に賑わいを見せている。

 ヤマトモ屋はナガミ村を思わせる石造りのしゃれた外観で、穏やかな秋晴れの下、店外に設置されたテーブルに着いている者もいた。その中で、金色の長い髪の女がシロの目を引いた。金の髪ぐらい、ヌガキヤ村でも珍しくないが、その女は人目を引く存在だった。もの凄い美人だったのだ。

 その美人と目が合った瞬間、シロは頭をガンと殴られたたかのような衝撃を感じた。女は真っ赤な唇の端をにゅうっと押し上げて、笑った。シロは慌てて目を逸らすと、行く先も決まっていないのに先を急いだ。

 慌てて目を逸らし去っていく男の後ろ姿を目で追っていた女の前に、食事が運ばれてきた。盆に載せられた土鍋の蓋をぐらぐら揺らしながら、勢いよく噴き出る蒸気。赤煮込みだ。

「ちんちこちんですから、お気を付けください」

「はい?」

「失礼しました。熱いですから、お気を付けください」

 女の美しさに見とれていてついお国言葉が出てしまった店員が狼狽しながら蓋を取り去ると、勢いよく湧き上がった湯気のため、視界が白く濁った。それでも女の目は、海老茶の生地にハの字が白く染め抜かれた印半纏の男の背中を見つめていた。

「おいしそうだこと」

 女はそう言って、箸を取り上げた。 


 シロは歩きながらナカさんからもらった観光客用のマップを眺めていた。中心に王宮が鎮座し、その周辺を、碁盤の目のような道路が縦横に規則正しく走っている。元々は何もなかった土地の小高い丘の上に宮殿を建て、それから周辺の草地を区画整理して街ができたため、整然としているがいささか退屈な街並みになっている、というのがシロが学校で習った古都キンシャチの成り立ちだ。

 シロが訪れることにしているドラゴン通りの酒場は王宮の北側の歓楽街にあり、西に大学と学生街、東に大教会、そして南に商人街という立地。

 特筆すべきは、この街には城壁がないということ。これは勿論、キンシャチに王が不在となってから既に数百年、堅牢な要塞として王宮を守る必要がもはやなくなったからなのだが、学問の都として、あらゆる分野の学術目的の研究を国内外から分け隔てなく受け入れるというポリシーのもと、百年ほど前にそれまで古都をぐるりと囲っていた石の城壁を取り払い、門を守る衛兵も排除した。破壊された壁は、今では土産物屋で売られており、破片を購入することができる。

「これはね、歴史的な出来事だったんだよ」

 昔はヌガキヤ村の学校長だったヌー村長の言葉がシロの脳裏に甦ってきた。


「学問というのはね、みんなが幸せになるために使われるものなんだ。強力な武器や戦術は、最終的には破壊と殺戮以外なにももたらさない。相手が更に強い武器を手に入れたら、それに負けない武器を手に入れる? そんな馬鹿なことにお金と知恵と労力を使うより、どうやったら誰とも争わずに、みんなが幸せにいきていけるか、どうやったら無益な戦を避けられるか、そういうことを考えるんだ。武力による恐怖政治って、だいたいうまくいかないものだ。だからね、君達。私は君達に、一生懸命勉強をしてもらいたい。それはね、牛飼いでも百姓でも一緒だよ。どんな職業であれ、何も考えないで生きていくことは無理だからね」


 シロの当座の目標ドラゴン通りは現在地である南東(ハッチョ卸売り支店は、商店街にある)から遠い。少々寝過ごしたとはいえ日はまだ高い。酒場が賑わうにはまだかなりある。

 シロは観光マップを畳んで懐へ入れた。まず都の東にある大教会に行って、神父や教区の信徒たちに助けを求めようと考えた。教会は好きではないのだが、そのようなことを言っている場合ではない。


 

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