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3 怪力女傑、盗掘団を蹴散らす

 わたしとアンジェリカ、ハール皇子は聖地イェルザレムを抜け、さらに南東の方角を目指した。

 人里そのものが少なくなるせいか、最初は整備されていた街道も、次第に岩の多い悪路になっていく。


「イェルザレムを見た後だと……なんだか気の毒になっちゃうくらい、寂れてきたわね」とアンジェリカ。


「もうこの辺りは、メインの交易ルートじゃなくなってるからなぁ。隊商(キャラバン)だってほとんど通らない。

 利便性がなくなり、道行く人々がカネを落とさなくなったら……まあ、こうなってしまうんじゃないか」


 ハールがさも当然といった風に溜め息をついた。


「住んでいたナヴァト人には悪いけど、別に中東(アラク)人のせいってワケでもない。

 時代の流れで、人々はより便利な道を使うようになるのは、自然な話だからね」

「おいおいハール。もしそこら辺にナヴァトの民がこっそり隠れ潜んでいたら、どうするんだい」


「賢いナヴァト人なら、とっくにもっと商売のしやすい場所に移り住んでいるさ。

 それでもこの地に留まっている者は――何か、別の理由があったりするんじゃないか?」


 ざわ、ざわ。

 日が暮れ始め、もはやわたし達以外に目立った人影もなくなった頃。

 砂だらけの岩山から、いかにも盗賊と思しき輩が数十人、わたし達を取り囲むように現れた。


「巡礼者が、こんな辺鄙なところまで一体何の用だぁ?」

「まさかとは思うが、聖地イェルザレムを目指してここに迷い込んだ、なんて言うつもりじゃねえだろうなぁ?」

「ぎゃっはっは! もしそうなら傑作だ! お金持ちのアラクの民よ、どうか恵まれないナヴァトの民に、お恵み下さいませェ!」


 何とも聞き飽きた、典型的(テンプレ)な追い剥ぎの脅し文句だ。


「なるほど。別の理由、ね……もっともこいつら、ナヴァト人ですらなさそうだが?」

「偽者なら偽者で、気兼ねなく退治しちゃっていいって事じゃないか。期待してるよ、マルフィサ」


 あまり気乗りはしない。結果が分かりきっているからだが……向かってくるのならば仕方がない。

 わたしは得物を抜き、襲いかかる盗賊たち相手に大立ち回りを始める事になった。


***


「……何だったのかしらね、あの人たち。弱かったけど」

「おおかた遺跡荒らしの類だろう。ペトラ遺跡は三十年以上前に地震でその大半が埋もれてしまい――ろくに発掘もされず、手つかずのままだと聞いた事がある」


 アンジェリカにあしらわれるほど、あの盗賊たちは弱かった。

 もっとも戦闘経験のない一般人相手ならば、あれでも十分な戦力だったろう。

 わたしのみならず、ハール皇子は軍人の経験があるし、アンジェリカもわたしと旅する事で場慣れした。何より彼女は魔術や魔物の類にはわたしなどよりよっぽど詳しいのだ。


「聞き出してみるかい? なぜ僕らを襲ったのか」


 わたしが半数ほど叩きのめした時点で、勝ち目無しと踏んだ残りの半分は尻尾を巻いて逃げ去ったのだが。ハール皇子が、盗賊の一人を捕らえていた。

 言われるまで気にも留めていなかったのだが、確かにわざわざ襲撃してきた理由は気になる。まさかたった三人の旅人を同業者と判断し、分け前が減る事を恐れた訳でもあるまい。


「ひッ……すまねえ、悪かった。命だけは助けてくれッ!」


 怯えきった盗賊はお決まりの台詞を吐いた。


「……とりあえず聞いておこうか。何故わたし達を襲った? 金目の物目当てか?」

「それもあるが……雇い主から言われてたんだ。お前らみたいな三人組が来たら、全員で始末しろってな」


 これまた奇妙な証言である。彼らには雇い主がいて……わたし達の人数も人相も知っていた?

 そして――彼の顔をまじまじと見ていたアンジェリカが、顔をしかめている。鼻をひくつかせている所からすると、何かを感じ取ったらしい。


「アンタ……(くさ)いわね」

「ンなッ……失礼なガキだな! 確かにここ三日、ロクに身体も拭いちゃいねえが……」

「それもちょっと嫌な話だけど、そういう事じゃないのよ。アンタからは――屍病蠅(ナァス)の臭いがする」


『!』


 魔法少女の口から出た屍病蠅(ナァス)という言葉に、わたしとハール皇子は思わず目を(みは)った。

 忘れるはずもない。ダマスクスでわたしが戦った中東騎士(マムルーク)・ズルールが体内に宿していた――死体に寄生し疫病を運ぶとされる、(ハエ)の姿をした女悪魔の名だ。


「な、何を訳の分からねえ事を……」

「フィーザ! 右!!」


 アンジェリカが突如として叫ぶ。わたしも素早く動いた。

 わたしが右拳を振り抜くと――そこには黒い霧を纏った、小さな蠅が一匹、飛び去ろうとしていた。次の瞬間、わたしの放った魔神(イフリート)の炎がまとわりつき、あっという間に燃え尽きる。


「――確かに屍病蠅(ナァス)だな。この男に取りついていたのか。しかし、たった一匹だぞ?」

「戦うためのモノじゃあないんでしょ、きっと。おおかた、あたし達がここに来た事を報せるための見張りとかじゃないかな」


 なるほど。アンジェリカの推測は腑に落ちるものだ。

 つまりこの先に埋もれるペトラ遺跡には――盗賊を雇い、屍病蠅(ナァス)を操る術者がいて、先回りしているという事だ。

 恐らくそいつは、ズルールの肉体に屍病蠅(ナァス)を産みつけさせた張本人であり、帝都を支配する邪悪な魔術師・白仮面(ムカンナア)の手先だろう。

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