異世界から降臨して世界を救った聖女の演説
世界に穢れが溢れだす時、この世界は異世界から降臨するとされる聖女が現れる。
100年に一度のことに聖女が降り立った聖国は沸き立った。
聖女は1年を掛け世界の穢れを浄化し、今は聖国の離宮で身を休めている。
聖国から各国へ通達があった。
聖女が皆の前で祈祷の儀式を行うという。
一目見ようと国民はもとより各国の代表も聖国の城へと集い。
よく晴れた日、太陽の光を享けながら聖女は姿を現す。
運よく近くで拝謁出来た者はまだ年若い少女に目を凝らし。
聖女はよく響く声で語りだした。
あー、どうも。このたび異世界から誘拐されてきた聖女って呼ばれてる女子大生です。
私の声、世界中に聞こえてるかと思います。うん、世界だと思う。地図見せてもらえなかったからわからんけど。
音って空気の振動で伝わるんで、その原理さえ分かってればこんなことも出来るみたいです。
ぱねっすね。聖女の力って。
後ろで慌ててる人もいますが、聖女のなんちゃらフィールド壊せる人はいないと思うんで続けますね。
これは私の持論ですが、幸せってお裾分けだと思うんです。
自分が幸せだから他の人の幸せを祈り願うことが出来るんです。
私は自分が不幸なのに他の人の幸せを祈るなんて出来た人間じゃないんです。
もちろん?その幸せってのが贅沢三昧って人もいるかと思いますが、少なくとも私は地位とかお金とかお高いドレスとかアクセサリーとかってどうでもいいんですよ。
異世界から人攫いにあってもう二度と帰れないって言われて、お父さんにもお母さんにもお姉ちゃんにもおじいちゃんにもおばあちゃんにも友達にも先生にも、みーんなに会えないって言われて、穢れてるところを浄化しなきゃ世界が滅ぶからやれって言われても知ったこっちゃねぇというのが正直なところです。
なんで世界が滅ぶのかって聞いてもそんなこともわからんのか馬鹿めって上から目線で嗤われて、それでもまぁ人が死ぬっていわれりゃ後味悪いですし?出来ることがあるならやってやらんでもないとは思いましたよ。
でもその浄化の旅も超マッハ。
宿にも泊まれずお風呂にも入れずひたすら馬車移動。
私の国馬車なんてもう廃れててこれっぽっちも慣れてないのにそれですよ。
一緒に旅してたお貴族様もって言っても、何日かごとに交代してましたからね?お貴族様はその数日間でいいかもしれませんけどね?一年、私馬車の中ですよ?
そんなほいほい入れ替わってもらっちゃ信頼関係築きようもないし、それでいて労りもせず聖女なんだからさっさと浄化しろ遅いやり方が悪い疲れたなんて甘えだって散々文句言われて、へとへとになりながら浄化の旅ってのから戻ってきたら感謝の言葉もなく後は何も知らなくていいって離宮?だかに軟禁されて何一つ自由にできなくて、あんたの世界での常識なんて通じないんだからこっちに合わせろなんでそんなことも知らないんだって精神攻撃食らわせて、それで今度は国の幸せを祈れって言われて出来ると思います?
私これっぽっちも幸せじゃないです。
人の話を聞かない人たちしか周りにいなくて不幸もいいところです。
贅沢したいなんて言ってないです。
ドレスも宝石もいらないです。
贅沢品を拒んだらこれ以上何が欲しいんだって責められるのってどういうことです。
侍女の皆さんに傅かれても全然気持ちよくないです。
美形の王子様?騎士様?どいつもこいつもお断りです。
自分の力を使うところも勝手に決められて、もっと町の皆さんと話をしたいと言っても止められて、お貴族様ばかりがおべっか使うところに押し込められて、本当に本当に私今不幸です。
絶賛絶望中です。
ストックホルム症候群なんてもんにはこれっぽっちもなりゃしません。
誘拐犯の国のためになんて祈りたくないです。
それでも私を聖女だっていうんなら、少しは私の言うこと聞いてください。
自分の家に帰りたいんです。
みんなに会いたいんです。
特に贅沢したくないんです。
こっちのこってこての料理ばっかり食べたくないんです。
勉強だってしたいんです。
もっと自由に外に出て、町のみんなと話をして、どうせなら本当に必要な人たちに力を使いたいんです。
聖女の務め?
なんですそれ?
説明してくれないじゃないですか。
勝手に拉致してきて勝手に役目を押し付けて理由を聞いたら我儘条件を付けたら我儘、えさを与えときゃいいだろとばかりによけいなものとか人とか寄越してきて。
贅沢させてやってるんだからありがたく思えって、要らないものを押し付けられたって迷惑でしかないんですよ。
なんで祈って当たり前だと思ってんの?馬鹿なの?何一つ私の希望を叶えてくれないくせになんで自分たちの希望は叶えられて当然なんてあほな発想になるの?
浄化してやっただけでもありがたく思えって感じです。
聖女のお仕事が義務だと言うなら権利をください。
私の国では義務と権利は同等に与えられるものです。
義務ばかり押し付けられたって聞くわけないです。
だって私はこの国の国民じゃなく連れ去られてきた他の世界の人間ですもん。
道理が違ったって当然でしょ?
他の世界の人を相手にする覚悟もないのに、いいように押さえつけられると思ってる人たちに誘拐拉致監禁された私はとってもとっても不幸です。
祈れと言うのなら私はこう祈ります。
私の不幸を皆さんにおすそ分けを。
私が不幸の分の不幸が皆さんにも降り注ぎますように。
私の絶望が皆さんにも理解できますように。
この世界に来て私に与えられた不幸と絶望と怒りと憤りと悲しみがすべて皆さんへ返りますように。
私にはここの人たちが言う聖女の力ってのがあります。
本当の力がどんなものなのかきっとみんな知らないです。
昨日、この世界の神様?が土下座して謝ってきました。人の手で行われたことを神様が覆すわけにはいかないから好きにしていいって本当の力ってのを教えてくれました。
何対等だと思ってんですか?対等どころか私が下だと思ってんですか?
この世界のだれにもできなかったことをなし得た、神様とも話が出来るあんたたちの言う聖女ってそんな奴隷みたいなもんなんですか?
異世界の聖女を拉致してきたこの国ってこんな残念な国です。
他の国の王様大統領首相はどうですか?
私を帰してくれる方法を知っている人はいませんか?
帰すメリットなんてないから単に研究されてないだけじゃないんですか?
一年待ちます。
それで見つからなかったら天罰ってのを降らせます。
脅迫のように見えますが、これきっと私の当然の権利です。
役に立たないなら殺すって剣を突き付けたのはここの世界の人ですから、やられたことはやり返します。
役に立たないならこの世界いらないですよね?
殺すっていうなら殺される覚悟を持てって私の世界の誰かが言ってました。
何回も言いましたが私贅沢はいらないんで、懐柔しようとか賄賂とか逆効果です。
色仕掛けも効きません。私これでも恋人いるんです。
殺そうとしたら聖女の最後の力ってのを解き放っちゃいます。何が起こるかはお楽しみです。
何回も何回も私を思いとどまらせる機会があったのにぜーんぶ無視したあんたたちですが、最後くらいはよーく考えてください。
では皆さん一年後に会いましょう。
皆さんの頑張りに期待しています。
以上、聖女の演説でした。
世界中が震撼した。
聖女召喚をした聖国から大々的な聖女の祈祷の儀式があると通達はあった。
唐突に響いてきた声は、すぐさま儀式に参加していた魔術師から本物であると報告が上がった。
聖女は演説が終わった途端眩い光を発し姿を消したという。
各国は強い抗議書を聖国に送る算段をしながら、緊急会議を開催する。
聖女召喚は世界の総意だ。百年に一度は繰り返されるその術を持つのは聖国のみで、だからこそ各国は資金提供や魔術師や騎士の派遣等を対価として渡していた。
聖女の扱いが聖女の言う通りならば、聖国はあり得ない驕りでもって世界を破滅の危機へ落とし込んだ。
責任を持って聖国に帰る方法を探させるべき。
否、信用ならない、自国で研究し世界を救い他国へ恩を売るべき。
それよりも国の境を忘れ、世界で一丸となりこの危機に対応すべき。
はたまた聖女を探し出し撤回させるべき。
真摯に謝罪をするべき。
まとまらない方針に焦りは増す。
何百年も模索したことのない帰還の方法。
一年もある、たった一年しかない。
聖女が一年を掛けて浄化した世界は、一年の間落ち着くことはないだろう。
そんな中。
聖女は。
「お疲れさん。あんたの声良く聞こえた」
「ただいま……ごめんね……っ!」
宙から湧いて出た聖女を受け止めた青年は、泣きじゃくる聖女をしっかりと抱きしめた。
青年は一年の浄化の旅に付き従った下働きだった。
貴族連中に囲まれて疲弊していく聖女に寄り添ったただ一人の平民だった。
「ごめんなさい……っ君の世界なのに……!」
「いいよ、どっちにしたってあんたが死ねば俺も生きたくねぇし」
聖女はこの世界で生きられるのは後二年、もって三年程度。
そう告げたのはこの世界の神だった。
聖女の体にこの世界の空気は毒にしかならないと、神は神だけに神妙に言った。
今までの聖女は少しずつ体を慣らしていった。すぐさま浄化など行わなかった。
浄化を行う時も清浄な空気を保つよう周りが補助していた。
それでも生き長らえて二十年。この世界の寿命の半分にも満たない。
だからこそ世界は感謝を込めて丁重に聖女を扱うはずだった。
寿命があからさまに短くなったのは確実に聖国のぞんざいな扱い故のもの。
聖女と青年は過酷な旅の中恋に落ちた。
旅から戻れば軟禁され、平民の青年とはなかなか会えなくなって、それでも何とか秘密の逢瀬でいつか一緒に過ごすことを誓い合った。
だから聖女はこの世界を許そうとした。
帰れなくても、青年がいるのならそれでよいと思おうとした。
神の宣告はすべてを絶望に変えた。
過去の幸せどころか未来の幸せも奪われた聖女は決意した。
自分が与えられる最大の仕返し。
自分を呼び出した聖国の権威は地に落ちるだろう。
あとはせいぜい一年世界中でもがき苦しめばいい。
そのくらいばちは当たらないとまさに神が約束してくれた。
一年後の審判も神が請け負ってくれる。
嘘、偽物、未完成、全て神が判断をしてくれる。
「もぅ……もうやだよぅ……わたしはっ幸せになりたいだけなのに……!」
「だよな。あんだけ頑張ったんだから、あんたは幸せにならなきゃな」
聖女の涙は止まらない。
青年はただ抱きしめる。
青年には生きていて欲しいけど、死んでくれるという青年も愛しい。
憎いけど怖い。
きっとこの世界にも青年のような善良な人たちはたくさんいる。
その人たちの命を天秤に乗せた。
もう聖女様と沿道に出て手を振ってくれることはないだろう。
憎まれるのは怖い。
聖女はおおむね争いごとのない平和な世界で過ごしてきた一般人に過ぎない。
それでも決意出来たのは、まさにあの一年の浄化の旅があったからこそ。
ただひたすらにこの世界は自分で自分の首を絞めている。
「あんたが好きだって言ってたスープ作っといたんだ。まずはそれ食べて落ち着こうな」
「……うん、あり、がと」
この世界の神が用意した聖域で、聖女はぐずぐずと鼻を鳴らす。
神の加護を得た青年に抱き上げられ、コテージへ向かう。
中では、旅の途中で聖女が初めて幸せだと思った温かく優しいスープの匂いがした。
そして一年。
世界中が固唾をのんで待つ中、高すぎず低すぎずよく澄んだ声が世界に響き渡る。
あー。どうも。一年ぶりです。聖女とか呼ばれてた元女子大生です。
今回も世界中に声は届いているんじゃないかと思います。
さすがに忘れてるとは思いませんが、国の上層部の皆さん。
私がお願いしていた帰る方法、見つかりましたでしょうか。
今回はこの世界の神様がお手伝いしてくれるって言ってますので、空が見えるところにその成果物をお願いいたします。
嘘じゃないです。神様全面プロデュースです。
証拠あります。神様がどの国も見えるスクリーンを用意してくれました。
聖国が私が現れた時のために軍隊を忍ばせてるのも見えます。
なんでわざわざ私が聖国に登場するなんて思いこんだんでしょうね?
行くわけないじゃないですか。ひたすら私をいじめてくれた国ですよ?
私そんなMじゃないです。
──国さん、残念。その魔法陣じゃ帰れません。一回でも試しました?動くかどうかもわからないものを納品しようとしても受け取れません。
──国さん、志半ばってことでいいですね。成果とは言えません。
──国さん、謝ってくれてありがとう。そういやあなたたちがこの世界で初めて謝ってくれた人です。
他の国もみんな無理だった、とそう判断します。
そして聖国さん。毒を用意ってどこまでなめたことしてくれてるんですかね?
それ飲んで行けるのは私の世界じゃなくてあの世です。
残念ですが私の希望を叶えてくれる国はないってことがわかりました。
自分たちだけ叶えてもらって、結局私の願いを聞けないって最低な世界だってわかりました。
天罰をって何をしようか考えてたんですが、浄化した穢れ、全部戻すことにしました。
安心してください。神様に聞いたらここの世界の人たちで十分綺麗に出来るみたいです。
異世界から聖女を呼んだ方が手っ取り早いってだけです。
単に怠慢だっただけです。
何それ、さいてーです。
国の偉い人たちが何とかしている間は塩水を活用してください。
浄化は出来ませんが抑えることは出来ます。
塩の生産が出来る国は必死になって生産してください。
それぞれの国が買い上げてちゃんと国民に配布してください。
値上げとか独占とか考えないでくださいね。お天道様が見ていますよ。
たったこれだけで抑えることが出来るんです。
どれだけこの世界が怠慢だったかわかると思います。
あと、召喚術ももう二度と使えないようにしてもらいます。
力の加減が出来ないから控えてたらしいんですが、これを機にやっちゃうって神様言ってます。
もう魔法で異世界じゃなくこの世界でも召喚も転移も出来ません。
今とんでもないところにいる人もいると思うんで3日後にお願いしています。
早く皆さんは自分の家に戻ってくださいね。
最後にですが。
もう私は二度と出てきません。
探したって無駄です。
絶対見つかりません。
この世界が今までやってきたことをよーくよーく反省して、自分たちの力で世界を良くしていってくれることを祈っています。
あ、祈っちゃった。
ま、いいか。おすそ分けです。
では皆さん御機嫌よう。
一年間ご苦労様でした。
以上、聖女の演説でした。
その後、聖女が浄化した世界中の穢れが再度発生したことを世界中が確認した。
そして聖女の言う通り塩水で拡大が防げることも。
国という国が聖女を探したが終ぞ見つけることは叶わなかった。
ただ、穢れの浄化の術の手がかりを見つけるまでの数年間、世界は大きな日照りも水害も疫病被害もなく、まれにみる穏やかな年月だった。
まるで聖女が世界の平穏を祈ったかのように。
END
今回は登場人物紹介はありません。みんな名前もないしね・・・。
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