83話 お節介な美人ママ
ヤツら撤退したみたいだな。
魔物を引き寄せて撤退させる作戦は上手くいったけど、釣れすぎだな。
想定よりも魔物が多い、とはいえそこまで強くない魔物ばかりだし、手間はかからないか。
無属性魔法«魔法弾・連»
魔法を魔物の群れに撃ち込んでいく。
狙いをつけなる必要などないほどの密度のため、面白いように当たり、その数を減らしていく。
「ようやく倒しきりましたか。疲れた。」
グラッジの暗黒術のせいで全身を軋むような痛みが襲っている。
今は何もしたくないほど疲れ果てていた。
それから何時間たったのかは分からないが、
「おーい、嬢ちゃーん、どこだー!」
という声が聞こえてきた。
のそりと身体を起こして、
「こっちです!」
と手を振った。
「そこにいたのか!待ってろよ!そっち行くから!」
「嬢ちゃん、なんでこんなところいるんだ?」
「まぁ、いろいろあったんですよ。ところであなたの家族は大丈夫だったんですか?」
「ああ、みんな避難してて無事だったよ。死んでたのは冒険者とか兵士ばっかりだったみたいだ。後は黒フードどもの死体もそこら中にあったらしい。」
「それはよかったです。申し訳ないんですが、連れて行ってもらえます?全身が痛くて。」
「分かったよ。って怪我してるじゃないか。」
「あ、本当ですね。気づいてませんでした。」
全身を見てみると、腕に巻いた包帯から血が滲んでいた。
腕の傷が暗黒術の起点になっていたのか。
「俺の家に来い。嬢ちゃんは命の恩人だからな。」
「お言葉に甘えさてもらいます。」
「俺の女房はエミナっていってな、美人なんだよ。息子もいるんだけどな、悪ガキで手がつけられないんだ。」
「へー、そうなんですか。」
「ここが俺の家だ。…帰ったぞー。」
「あら、おかえりなさい。探し人は見つかったの?」
「ああ、この子だ。メイっていうんだ。」
「どうも、メイと言います。」
「あら、可愛い子ね。夫を助けてくれたそうで、ありがとうございます。」
「大したことはしてませんよ。」
「そんなことは後で話してくれ。腕を怪我してるみたいなんだ。」
「本当ね。包帯持ってくるわ。」
「持ってきたわよ。」
「ありがとうございます。あまり見ない方がいいですよ。気持ち悪いですから。」
そう言って包帯を外す、腕の傷痕全体から血がでいたようで、血が固まっている。
それを水で洗いながら包帯を巻いていく。
「その皮膚の爛れ方は普通じゃありえないわ。」
「何があったんだ。そんな怪我は見たことがない。」
「呪いですよ。バークスさんには言いましたけど、呪いをとくためにここまで来たと言いましたよね。」
「ああ、そうだな。じゃあ、呪いが解けたらその傷は治るのか?」
「治りませんよ。この傷があることが正常だと身体が認識してしまっています。だから、治ることはありません。いや、元に戻ることはないですね。」
「そんな!女の子にこんな傷があるなんて!誰につけられたの!」
「ま、魔物にですよ。」
少し気圧されながら応える。
「嬢ちゃんが困ってるだろ。そういえばあの子は?」
「もう寝たわ。今日は大変だったから。」
「そうか、嬢ちゃん。明日俺たちの息子を紹介するよ。今日はゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。お世話になります。」
その夜は泥のようにグッスリと眠った。
無属性魔法«ラッシュ»・・・前に使っていた無属性魔法«マジックボール»連弾という技術を魔法に昇華したもの。魔力効率が良くなり使いやすくなった。