82話 悪魔の爪
「キャアアア!?」
あっちに襲われている人がいるようだ。
面倒だけど、助けに行くか。
「この子の命だけは助けてください。だ、誰かこの子だけでも、お願いします。」
「母親の鑑だな。だが、ダメだ。俺はガキが大嫌いだからよ、おいガキを連れてこい。」
「何をするの!やめて!」
無理やり子どもと母親を引き離す。
「さて、どうやって殺してやろうかな、ギャハハ!」
「グワッ!」
「ギャア!」
「お前ら何やってるんだ。」
子どもを掴んでいた男が後ろを向いた瞬間、子どもを掴んでいる手を切り落とした。
「…え?ッッッギャアアア!?手が、俺の手が!」
「大丈夫ですか?」
「ありがとうございます!」
「あっちに早く逃げなさい。」
「本当にありがとうございます!」
母親は子どもを抱きかかえ、走っていった。
子どもは終始何が起こったのか分からない様子で、ポカンとした表情だった。
「お前は何者だ!」
「雑魚と話す気はありません。動かないでくださいね。苦しめてから殺してあげますから。」
敵に接近し、剣を振ろうとしたとき男の身体から違和感を感じた。
その違和感の正体を探るために一旦距離をとる。
「お前は何者だ?俺の術を見破るなんてただのガキじゃねぇな。」
「人に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀ではないですか。」
「ハッ!お前面白いな。いいぜ、名乗ってやるよ。俺は天理教団、悪魔の爪のグラッジだ。またの名を怨嗟のグラッジ。敵地でここまで余裕でいられるとはな。危機感の無いバカか、危機感を感じる必要の無い強者か、お前はどっちだ?」
「さあ?自分で見極めて見なさい。」
そう言った瞬間二人の姿が消えた。
ガギン!
二人がいた場所の中間地点から金属のぶつかる音が聞こえた。
消えたわけではなく、高速で移動しているのだ。
二人がぶつかりあった時以外はほとんど姿が見えず、地面を踏み込む音と、移動時の風切り音だけが聞こえる時間が続いた。
「てめぇのその傷いい恨みが込められてるな。」
「恨みなんていいわけないでしょう。」
「暴走しろ。暗黒術«怨嗟の陰»」
「何を…クッ!アアアアアアァァァァ!?」
「これこそが俺の必殺技。恨みを暴走させるんだ。恨みを暴走させると痛てぇからな、正常な判断が出来ずにミスをするんだ。そこにつけ込むってわけだ。だが、お前は何をしたらそんなに恨みを溜め込むのか分からねえな。常人なら痛みでショック死するレベルなのによ。なぜ耐える、楽になっちまおうぜ。」
「ハア、ハア、…なぜ耐えるかだと?まだ死ぬわけにはいかないからだ。私の帰りを待っている人がいるから。」
「てめぇみたいな人殺し誰が待つんだよ。現実を見ろ。俺たちのような人殺しは表の世界では生きていけないんだよ。」
「それでも私は帰らなければならない!聖気全力解放。」
ドクン!
そのとき、何かが脈動したような音が聞こえた。
「大変です!魔物の群れがこちらに来ています!」
「何?…おいお前、何をした!っていねえし!逃げやがった!」
「グラッジ様!指示を!」
「今の人数で魔物と戦うのはキツイ、撤退するぞ。」