73話 プレゼント
王太子は数日辺境伯と話し合ったあとすぐに帰っていった。
「なんだか慌ただしいわね。」
「それだけ忙しいということですね。」
そうやって話していると、辺境伯から目線とジェスチャーで執務室に来るよう指示された。
なんだあのポーズ…。事前に決めてないジェスチャー使うなよ。
「ジェスチャーするのはいいんですが、決めてないジェスチャーするのはやめてください。」
「ゴメンゴメン、次はしないよ。」
「次があるんですか。」
「それは分からないね。まぁ、それは置いといて話し合ったことを共有しておこうと思ってね。怪盗シグルについてとか、天理教団についてとか、君も知ってることばかりなんだけど一応ね。後はそうだな、君が貴族社会だと完全に忘れられていることとかかな?」
「どういうことですか?」
「国王と貴族の前で模擬戦やったよね、あれよりもインパクトが強い事件が立て続けに起こったからね。君のこと印象に残ってないみたいなんだ。」
「公爵の反乱とその後の大量粛正ですか。」
「そうだ。それがあったから君を見たことがないという新貴族もいたりね、メイくんは忘れられている方が好都合だって言いそうだけどね。」
「あんな人たちに覚えられていてもいいことなんてありませんからね。」
「ハハハ、君らしいね。それで、カイトくんは天理教団について何と?」
「話す気はないの一点張りです。」
「そうか、なんとか聞き出せたなら良かったんだが、無理やり聞き出す気はないんだろう?」
「今のところその必要性は感じませんから。助けが欲しいなら言いなさい。とは言ったので、自分の判断で動くと思いますけど。」
「そうか、こちらでも調査はするけど何か分かったら教えてくれよ。」
執務室を出て、歩いているとサキに声をかけられた。
「メイさん、少しいいかな?」
「なんでしょうか?」
「ちょっとこちらに。」
「メイじゃない、メイも呼ばれたのね。」
「カレン、何かあったんですか?」
「えっと、その、1週間後カイトの誕生日なの。それでプレゼントを用意したくて、協力してほしいの。」
「そうなんだ。ならパーティーの準備をしないと。」
「それはいらないの。孤児院でパーティーをするつもりで二人も招待しようと思ってて、来てくれる?」
「もちろんよ!メイも行くでしょう?」
「招待されたなら行きますよ。それで、プレゼントは何にする予定ですか?」
「短剣にしようと思ってるの。」
「短剣?どうして?」
「カイトは短剣を使ってるんだけど。安物の短剣でね、切れ味も悪いし、ずっと使ってるから刃こぼれもひどいの、だから新しい短剣を買ってあげたいんだけど、私の給金じゃ短剣は買えなくて、それでお金を貸してほしいの。」
「いいですよ。カイトには私もお返しをしたいと思っていましたから。」
「そうだったのね。そういえばカイトはメイが認めるくらい強いんだっけ?」
「そうですね。安物の短剣を使ってあの強さですか、もっとちゃんとしたものを持てばもっと強くなりますね。」
「それで、サプライズにしたいから内緒で短剣を見に行きたいんだけど一緒に選んでもらえないかな?」
「私を呼んだのはそれが理由ね。いいわよ!楽しそうだし。」
「カイトが使っている短剣を見ないと選びにくいと思いますよ?」
「そういうと思って借りてきたの。…これよ。」
「本当に刃こぼれがひどいですね。これがあれば短剣を選ぶこともできますね。」
「それじゃあ行くわよ!」