72話 密談
馬車が屋敷の前にとまり、そこから人が降りてきた。
「やあ、久しぶりだね。カレン嬢、メイ嬢。」
「なぜ殿下がここにいるんですか。」
「話し合いたいことがあったからね。ヘイミュート辺境伯の報告のおかげで王都は大騒ぎさ。」
「お父様はこちらですわ。」
「ご令嬢に案内してもらえるとはね。」
「これは殿下、お待ちしておりました。」
「歓迎ありがとう。可愛らしいお嬢様方に出迎えていただいて光栄だよ。」
「私たちに外に出るように言ってたのは殿下を出迎えさせるためですか?」
「いや、それは偶然だよ。普通に出迎えるつもりだったんだけど、君たちに先を越されただけだよ。」
「そうですか。カレン、邪魔にならないように向こうに行っていましょう。」
「分かったわ。殿下、それではごきげんよう。」
辺境伯視点
「まったく忙しくなったものだよ。王都ではおちおち世間話すらできない状況だよ。王国で暗躍する犯罪組織の存在が分かっただけでも良しとすべきなのだろうけどね。」
「そうですな。メイくんがいなければもっと危険な状況になっていたかもしれませんからね。」
「キマイラの製造とはめんどくさいことをしてくれたものだ。まぁ、卿の工作のおかけで国内をまとめることはできた。後は他国の批判をどう対象するかだね。」
「そればかりは外交官に任せるしかありませんな。」
「優秀な者を選ばなければいけないから、また仕事が増えるんだよ。」
「キマイラといえば、怪盗シグルに関することなのですが、あの怪盗はその犯罪組織を追っているようなのです。」
「それは本当か!?それが本当ならグルース小隊長の権限を上げられるかもしれない。」
「というと?」
「グルース小隊長はね、とても優秀なんだ。でも平民ということで出世ができなくてね。それをなんとかするために誰もがやりたがらない怪盗を捕まえる任務を与えたんだ。」
「一種の左遷ということでしょうか?」
「そうだね。しかし、名目上彼は小隊長まで出世した初めての平民だ。これで他にも名目があれば、彼を出世させることができる。バカ貴族のボンクラどもはめんどうな任務なんてやらないだろうからね。」
「そして、気付けば国王派の主要メンバーだと言うことですか。」
「それが私と騎士団長で立てた計画なんだよ。」
「何話してるのかしら?」
「さぁ?難しい政治の話ですよ。」
「政治ってどんなことやるの?」
「うーん…簡単に言うのは難しいですね。まぁ、普通に生活していれば分かりますよ。…多分。」
「そうなの?みんなが幸せになるように出来ないのかな?」
「カレンは純粋ですね。そのまま成長してくださいね。」
「何よその優しい笑みは、また子ども扱いしてるわね!私の方がお姉さんなのに。」
「ムスッとしない。可愛い顔が台無しですよ。」
「また子ども扱いしてる。」
殺伐とした大人たちの話に聞き耳をたてていた私はカレンの純粋さに癒されていった。