64話 人間恐怖症
「彼はいつ来るか知ってるかい?」
「時間は指定していないので分かりませんが、少し遅いですね。」
「何かあったのだろうか?逃げたとか?」
「いえ、まだこの街にいるので逃げてはいないようです。あ、来たみたいです。」
「旦那様、お客様がいらっしゃいました。」
「分かった、ありがとう。」
玄関に向かうと、カイトが一人でいた。
「あれ?一人ですか?」
「すまない、人と会うのは絶対にイヤだとか言ってテコでも動かないんだ。」
「なるほど。では、私たちがいきましょう。」
「俺の力が足りないばかりに、すまない。」
「問題はありませんよ。カレンを連れて一緒に行きましょう。」
「この人は誰なの?」
「彼は付き人見習いのカイトです。もう一人見習いがいるらしいのですが、人見知りで来ようとしないなので私たちが直接行くことにしたんです。」
「その人は大丈夫なの?」
「実は、俺の妹なんです。サキって言うんですけど、さすがに人見知りを治さないといけないと思ってメイさんに頼んだんです。」
「そうだったの。何をしたらいいのかよく分からないけど分かったわ!」
「まぁ、カレンはいつも通りやってくれれば大丈夫ですよ。」
カイトが住んでいるという場所に行くと、
「孤児院に住んでいたんですね。」
「ああ、俺もサキの両親両方死ぬか、蒸発しちまったからな。」
「そうですか。」
「結構寂れてるわね。」
「そうなんだよ…そうなんです。教会の連中にはここに回す金は無いって言われてるらしくって。」
「言いにくかったら敬語じゃなくてもいいわよ。メイも私のこと呼び捨てだし。」
「あー、そうか。なら、敬語は使わないことにする。普段使わないから、気持ち悪くて。」
「では、入りましょうか。」
「そうだな。お客様をいつまでも外に立たせっぱなしじゃ失礼だからな。中は騒がしいと思うが、気にしないでくれ。」
中に入ると、数人の子どもがいた。
「兄ちゃん、その人たちは誰だ?」
「俺の職場の人だよ。サキに会ってもらうために来てもらったんだ。」
「サキ姉ちゃんはキッチンの方にいたぞ。」
「その人のどちらか兄ちゃんの彼女じゃないのかよ。」
「そんな訳ないだろ!」
「違うよ。兄ちゃんはサキ姉ちゃんのことが好きなんだよ。でも、ヘタレだからまだそのことは言えてないだけだよ。」
「そうだよな兄ちゃんヘタレだもんな。」
「コラ!何バカなこと言ってんだ!ごめんなさい、アイツらまだ子どもなんだ、許してやってくれ。」
「別に気にしてないわよ。」
「気にする程のことではありませんよ。」
「ありがとう、キッチンはこっちだ。」
キッチンに移動して、
「サキ、いるのか?」
「あれ、もう帰ってきたの?」
「お前がワガママ言うから来てもらったんだ。」
「やだ!私、人とは会わないって言ったよね!」
「この孤児院に恩を返すなら仕事をしないといけないのはわかってるだろ。」
「そうだけど…。」
「あなたがサキさん?」
「ヒィッ!」
「怖がらなくてもいいわ。私はカレン。カレン・フォン・ヘイミュートよ。私はあなたに何もしないわ。」
「サキ、その人と話してみろ。カレン様はお前を騙したりしない。」
「…分かった。で…でも、少しだけだから。」
「じゃあ庭で話しましょう。」
そうして二人は庭に出ていった、打ち解けられることを祈るばかりだ。