60話 取引
「それで?いつその傷のことを話してくれるの?」
「ひどい傷だね。大丈夫なのかい?」
「今ところはといったところでしょうか?私もこれがどういうものなのか完全に把握できていないので分からないのです。」
「メイでも分からないんだ。」
「それはどんな傷なんだい?」
「この傷はただの傷ではありません。怨念のこもった呪いです。術者の死をトリガーとして発動しているため解呪が難しいのです。」
「教会の人に解呪してもらうとか出来ないの?」
「無駄だと思います。これは儀式魔法レベルの解呪でなければ歯がたちません。ただ、今すぐどうにかなるということはありません。」
「それは一安心だけど、やっぱり心配よ。」
「いきなりポックリ死んでしまわないか心配だね。」
「この系統の呪いは即死ではなく、かけられた者をジワジワと苦しませるのでそこは心配ないです。」
「余計ダメじゃない!」
「死ぬまでに対処できる時間があるなら何とかできないこともないので大丈夫なんですよ。」
「ホントに?ホントのホントに大丈夫なのよね?」
「はい。私はこの程度の呪いでは死にませんよ。」
「なら、良かったわ。」
「じゃあ、地下牢に行こうか。」
「そうですね。早く行かなければ。」
「私、地下牢はやめておくわ。」
「怖いんですか?」
「こ、怖くなんかないわよ!ただ…そう、気分でいかないだけよ。」
「フフ、そうですか。」
カレンと別れ、地下牢に向かっていると。
「その呪いは本当に大丈夫なのかい?私の目にはいくら君でも対処できないように見えるのだが。」
「あの場ではそう言うしかありませんでしたから。」
「そのコソ泥を後釜に据えるつもりかい?悪いが、彼では勤まらないと思うよ。」
「念のためですよ。この呪いがいつ発動するのかが分からないのです。保険はかけておくべきです。」
「そうか。…あの子を悲しませないでやってくれ。」
そう言った後、黙り込んでしまった。
最低限の回復を施してから怪盗シグルを地下牢に入れ、起きるまで待った。
「…ここはどこだ?身体中痛てぇ!俺は確か…。」
「ようやく起きましたか。」
「なんだお前らは。」
「私はこの領地の領主のヘイミュート辺境伯だよ。こっちは護衛のメイくんだ。怒らせると怖いから逆らわない方がいいよ。」
「そんなヤツらが俺に何の用だ。」
「取引をしませんか?」
「この状況だと乗るしかないようだな。」
「賢い人は好きですよ。あなたには二つの選択肢があります。」
「選択肢ね。ロクなものじゃなさそうだ。」
「いえいえ、私たち全員が幸せになれるものですよ。」
ニヤリと笑ったメイの顔を見て、カイトはブルりと震えたのだった。




