57話 怪盗シグルの仕事ぶり 後編
この商会の中にある物の中でもっとも高価なものはダンジョンで発見されたというアーティファクト、不死鳥の指輪だ。それをいただいていくことにする。
「指輪はどこにあるかな?」
『1階の一番警戒が厳重なところよ。』
「まぁ、当然か。」
時間になった瞬間。照明をすべて消し、暗闇にする。
暗視の魔道具を持っていたとしても、一瞬目が眩むはずだ。その隙を逃さず、指輪を盗み少し離れた高いところに立つ。
「不死鳥の指輪確かにちょうだいしましたよ。」
「お前が怪盗シグルとかいうコソ泥か!それを返せ!」
「泥棒が返せと言われて返すわけないでしょう。それでは。」
そう言って逃げようとした瞬間。
グガアァァ!
「何だ!」
そいつは中央にライオンの顔、左にヤギ、右に狼の顔を持ち、身体は虎、尻尾はヘビだった。
『それはキマイラよ!逃げて!』
「なんで街中にキマイラがいるんだよ。」
「何だ!何があった!あ、シグル!お前何をした!」
「隊長どのではありませんか。俺は何もしていませんよ。」
「この化物は何だ。」
「キマイラらしいですよ。コイツは俺が対処します。隊長どのは住民の避難をしてください。」
「う〜。人の命には変えられんか。クソ!お前の逮捕は後回しだ!おい、お前たち!行くぞ!」
「「はい!」」
『一人で勝てるの?』
「分からねぇよ。でも、罪のない人を巻き込むわけにはいかないだろ。」
『…死にそうになったらすぐに帰ってきなさい。』
「分かった。…まったく、俺の装備は人間用であって魔物用じゃないんだがな。」
通信用の魔道具を投げ捨てながらそうボヤく。俺の装備は短剣だ。
一つだけコイツにも効きそうな物はあるが、生憎一つしか持ってない。
「時間稼ぎくらいならできるだろう。来いよ!」
グガアァァ!
爪で切り裂こうとしてくるのを避けて、腹を切り裂く。
「再生早すぎだろ!」
一瞬で傷が再生し、尻尾が飛んでくる。
それを短剣で受け流し、さらに切り裂く。
シャアアアア!
ヘビの尻尾が鳴く。
あれも頭なのか?
ヘビは口からガスを吐いた。
「ガハッ!これは即効性の毒ガスか。」
ガスを吸い込んで出てきたのは血だった。
口に布を巻いて、少しでも吸い込まないようにする。
ライオンの顔がカチカチと歯を鳴らしている。
「もしかして。」
ゴオォ!
「燃えるのかよ!」
歯で火花を出し、それが毒ガスに引火しているらしい。
クソ。これは近づけないぞ。
クックック
「笑っている。俺を弄んでそんなに楽しいのか?」
コイツはダメだ。野放しにすれば何人もの人が不幸になる。
ここでコイツは殺す。命に変えても必ず。
「行くぞ!クソ野郎!」
周りに人はいない、これを使えば俺もタダじゃ済まないかもしれないが、ヤツを殺すことができる。
チャンスは一回!行くぞ!特製の魔力暴走爆弾を喰らえ!
「はああああ!」
ピカッ!
その瞬間世界が真っ白になった気がした。
その後、凄まじい爆音が聞こえ、自分は死んでいないのだと認識した。
「これで、どうだ。クズ野郎がよ。」
キマイラはバラバラの肉片になった。
「これで何とか勝ったが、身体が動かねぇ。」
爆風を影響で身体がボロボロになっていた。
キマイラの肉片がピクピクと動き出した。
「こんなになってもまだ死なないのかよ。」
そこからゆっくりと再生していくが、身体が動かない自分にできることは何も無かった。
「すまねぇ。帰れなくなっちまった。」
グルルル
キマイラは唸りながらニヤニヤと笑っている。
どうせ、どうやって殺してやろうかみたいなくだらないことを考えているのだろう。
その鋭い爪を振りおろそうとした瞬間。
グガアァァ!
キマイラがふっ飛ばされた。
そこには一人の少女がいた。
「大丈夫ですか。助けに来ました。」
「…気をつけろ。そいつは…バラバラになっても…再生する…ぞ。」
そう言って俺は意識を失った。
魔力暴走爆弾・・・名前の通り魔力暴走が臨界に達し、一気に大爆発が起こる爆弾、設置罠として使われることが多く、至近距離で爆風を浴びればバラバラになって死ぬ。
カイトが死ななかったのは壁に隠れ、魔力強化を全力でやっていたから。