465話 八つ当たり
「お前がグウィントか?」
男は戦場から離れた山頂に座っていた。
「俺を殺しに来たか?」
「それがお望みならプレゼントしてやってもいい。」
「…」
「お前はなぜここにいる?」
「俺は、目が良いんだ。ここからでも戦場がはっきり見える。」
「見ているだけか?」
「俺は、帝国のためだと思って色んな事をやった。だが、この光景はなんだ?大陸の中央に位置する帝国は両側が戦場になり、兵士は悪魔憑きになっている。これが俺が作り出そうとしていた帝国の姿なのか?こんな事のために俺はやりたくもない事をやっていたのか?そう思った時、もう何もやりたくないと思った。だから、俺はこんな所にいる。」
「この国をこんな風にしたのは誰だ?お前の信念を汚したのは誰だ?お前はこのままでいいのか?民のために戦う事がSランク冒険者の存在意義だろうが。」
「俺には資格が無い。民のために立ち上がる事も、復讐だと逆恨みする事も今の俺にはそんな資格は無い。」
「資格なんて関係あるかよ。お前は誰かが助けを求めている時に助ける資格があるかどうか考えるのか?まずは動いてみろ。お前に資格があるのかどうかなんて戦いが終わった後にじっくり考えればいい。」
「お前は、変なヤツだな。敵を励ますなんて。」
「お前がもっと嫌なヤツなら殺していたさ。」
「不貞腐れるのは後だ。こんな事をやらかした元凶に八つ当たりしに行くとしよう。」
「どうするつもりだ?」
「まずは補給拠点の街だ。そこに悪魔憑きを操作している悪魔がいる。」
「お前の監視が俺の任務だ。手助けはいるか?」
「手助けは不要だ。悪魔ごときに俺が遅れを取ることはない。」
「すごい自信だな。まあ、そういうならSランク冒険者の腕前を見学させてもらうとしよう。」
「ぜぇ、ぜぇ、やっと着いた。」
「サキ、やっと着いたのか。遅いぞ。」
「うるさいわね!」
「叫ぶ元気はありそうだな。それじゃあ行くぞ。」
カイトはサキを抱える。
サキはこの後カイトが絶対に高速移動すると確信し暴れるが、その抵抗も虚しいものだった。
「ちょっと待ちなさい!ってばぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」
「結構近かったな。」
「まさかついてこられるとはな。やるではないか。」
「それほどでもないさ。」
「おろろろろ…胃の中の物全部出しきちゃった…」
「お前、三半規管弱いんじゃないか?」
「お前の三半規管をぶっ壊してやろうか。」
カイトを睨みつけながらサキは恨み言をぶつける。
「仲が良い事だな。実に良い事だ。」
「何、うむ。みたいな雰囲気出してんのよ。」
「否定する必要は無い。では、ここで見ているがいい。」
雷のように素早く、グウィントは消えていった。
「何なのあいつ。」
「さあ?でも、そんなに悪いヤツじゃなさそうだ。」
「また根拠も無いこと言ってる。」
「信用無いなぁ。」