365話 定時連絡
ある日メイは定時連絡のために街の外に出ていた。
「よう、嬢ちゃん。久しぶり。進捗はどうだ?」
「ぼちぼちといった所です。皇太子は魔族と繋がっているどころか魔族になっていましたよ。」
「結構ズブズブって感じか?」
「おそらくは。写真機で現場を撮影したので、証拠はありますよ。」
「これ買ったのか?よく金が足りたな。」
「もう少しカイトが早く来てくれていれば資金の補充ができていたんですが、半分を切っていたので地下闘技場で少し暴れてきましたよ。」
「何やってるの?」
「賞金ガッポリです。」
「そういう事じゃないよな?目立たないようにって言われたよな?」
「認識阻害の仮面を着けていたので大丈夫です。」
「はぁ…味方を作るっていう方はどうだ?」
「そちらもいくつか進捗がありましたよ。」
「そうか。この任務も半分を切った。あの皇子がどうなるかはこの任務にかかってる。無駄な殺しをしたくないなら失敗はできないぞ。」
「分かっています。殿下や辺境伯には最善を尽くしていると伝えてください。後、後日請求書をまとめるとも」
「分かった。ちゃんと伝える。ちなみにどれくらい使ったの?」
「今のところ、これくらいですね。」
「…」
メイが差し出した領収書の束を見てカイトは絶句するのだった。
カイトと別れ、屋敷に戻ると、イガレスが剣を振っていた。
「朝から精が出ますね。」
「先輩か。どこに行ってたんだ?」
「定時連絡をしてきました。」
「そっか。ハァ!」
話しながら剣を振り続ける。
「イガレス。手に力が入りすぎです。リラックスしなさい。」
「リラックスね…」
「深呼吸をするんです。何をそんなに焦っているのですか。」
「焦ってるか。そりゃあ焦りもするさ。何かの役に立つと思ってついてきたのにさ、俺が役に立ったのなんて最初のちょっとだけだったじゃないか。ガルドと合流した後からは俺じゃなくてガルドとこそこそ話してるし、こんなつもりじゃなかった。」
「イガレス。あなたは自分が役に立っていないと思っているようですが、そんな事はありません。あなたがいなければ私は帝国で味方を作ることは出来ませんでした。それに帝城に侵入する時も突破口を教えてくれたのはあなたです。あなたは十分役目を果たしてくれています。今はあなたの得意な場面でないだけです。」
「俺は…自分に自信が無いんだ。俺は兄貴を倒さなくちゃいけない。でも、そうすれば次の皇帝は俺だ。俺は俺に皇帝になる資格があるとは思えないんだ。」
「なら、逃げますか?追手を排除するくらいならサービスでやってあげますよ。」
「ハハ、それもいいかもな。」
「ガルドさんはあなたを本当に心配しています。あなたを皇子だからではなく、1人の人間として接している人達の事を1度考えてください。それでも資格が無いと思うなら私の所に来なさい。今ならまだ逃げ出すことができます。」
そう言うとメイは自室へと戻って行った。




