361話 捉えどころのない人物
「いやー、いい運動になりましたね。」
「俺が席を離れている間に試合終わってたんだけど…」
「バイザスって人との試合みたいなピンチはなかったので見ても楽しくないですよ。」
「俺がトイレに行ってたの5分くらだったよな。」
「1VS1じゃなくて3VS1にしろって言い出したんですよ。」
「先輩なら勝てるのかもしれないけど、どうなったの?」
「選手達はそれに舐めるなと抗議したんですが、主催者の鶴の一声で3VS1の試合が決まったんです。」
「剣まで使って本気を出したんですよ?」
「その結果?」
「瞬殺でしたね。ジューンが消えたと思うと選手達が殴られたように吹き飛び、再びジューンが舞台に姿を現した時には全員気絶してました。」
「はー、見たかったな。」
「最近隠れてばかりだったのでストレス発散できてスッキリです。」
「それは良かった。」
「賞金もたくさんですし、2人の賭けもかなりの額になっているのでは?」
「確かに、オッズは相当高かったはず。これって結構贅沢できるくらいの金額じゃないか?」
「そうですね。私も自分に賭ければ良かったかもしれませんね。」
メイ達が帰ろうとすると後ろから声をかけられた。
「君がジューンだね。私は当闘技場のオーナー、カンパレスだ。君のその強さを見込んで聞いてみよう。この闘技場で働く気はあるかな?」
「申し訳ありませんが、まとまったお金が欲しかっただけで、働きたいとは思っていません。」
「それは残念だ。そちらの方々はお知り合いかな?」
「そうですが、なにか?」
「いやいや、あなたも強そうですね。闘技場で選手をやってみないか?」
カンパレスはガルドに近づき手を取るとそう言った。
ガルドは驚いた顔をしたが、何かを話し合っているようだ。
ガルドが顔を横に振るとカンパレスは手を離し後ろに下がった。
「今日だけで2人にフラれてしまった。ショックなので、ふて寝する事にしよう。それでは、またのお越しをお待ちしております。」
そう言って手を振ると、地下に消えていった。
「何を話していたんですか。」
「…屋敷で話す。ここで話す事ではない。」
「分かりました。」
屋敷に戻り、メイとガルドは腰を据えて話をする。
「カンパレス。ヤツは闘技場のオーナーでありながら商人であり、貴族だ。金で爵位を買ったというヤツだ。」
「なるほど、なかなか捉えどころのない人物のようでしたが。」
「ヤツは俺の変装を見破ったんだ。そして、何を企んでいるのかと尋ねてきた。当然俺はただのお忍びだと言ったが、ヤツは君の事を知っていた。ヘイミュート侵攻の際もっとも大きな障害となった赤眼の悪魔の事を。他人の空似だと言ったがヤツは信じていないだろう。」
「邪魔者に成りうるという事ですね。」
「そうだ。それと、数日調査して裏をとれた。君の言っていたことは本当だった。疑ってすまない。」
「これで信頼していただけるなら、安いものです。」
「そうか。これで俺は戦友達の無念を晴らすことができる。」
「怒りは強い原動力ですが、怒りに呑まれてはいけません。あなたの選択に帝国の運命が握られていると言っても過言ではありません。」
「そうだな。今はまだその時では無い。」
「そうです。今は力を貯めるべきです。」
「俺は早速部下の所に行ってくる。協力を得られた後はカンパレスを抱き込む。決裂すれば…」
ガルドはそう言って汚れた事も厭わない事を決意した顔をした。




