359話 地下闘技場
「お金がありません。」
「なんだよ急に。」
「写真機買ったせいで所持金が半分以下になりました。まだ1ヶ月以上滞在する予定なのにまったくお金が足りません。稼げる仕事ありません?」
「稼げる仕事か。地下闘技場でも行ってみるか?賞金はかなりの額だぞ。」
「それって合法ですか?」
「非合法に決まってるだろ。でも、黙認されてる。場所は貴族街の地下にあるんだ。」
「なぜそんな所に。」
「帝都も歴史が古いからどうしてあるのかも分からない空洞がいたる所にあるんだ。闘技場はその内の1つを整備して作られた場所なんだぜ。」
「そういう物なんですか。」
「ああ、食うに困った元冒険者として出れば、身元がバレる事もないし、怪しまれないさ。」
「普通の冒険者が入れるのでしょうか?」
「出入口は平民街の方にもあるから大丈夫だ。とりあえず、ガルドに話してくるからちょっと待っててくれ。」
イガレスを待っていると、変装したガルドが一緒にきた。
「ワシも一緒に行くぞ。皇子が心配だ。」
「大丈夫だって言ってるのに、心配性だよな。」
「そうですか。では、行きましょう。」
大会にジューンという偽名でエントリーしたメイは控え室に行くことになった。
「男性用の控え室は人がたくさんいますけど、女性の方は私以外人がいませんね。」
時間となり、メイは仮面を被って入場する。
初戦はバトルロイヤル形式らしく、メイを含めて20人ほどの選手が舞台に立った。
試合が始まると全員がメイを囲んでジリジリと寄ってくる。
弱そうな相手から先に倒そうという魂胆らしい。
「か弱い女の子を寄って集って倒そうとするとは、いいご趣味をお持ちで。」
男たちの攻撃を軽やかに避けながら、スキを見て攻撃していく。
「イガレスが圧勝すると賞金が貰えないかもしれないから適度に負けて戦うって言ってましたけど、適度に負けるって何でしょうか?」
そう言いながらも、剣は抜かずに拳だけで男達を倒す事数分、
ついにメイは腹に棍棒の一撃をもらってしまった。
イガレス視点
「あ、先輩がやられた。先輩大丈夫かな?俺が余計な事言ったからピンチを演出しようとしてるんじゃ…」
「坊ちゃん、あれを見てください。急所を避けています。あれでは大したダメージにはならないでしょう。」
「今もボコボコにやられてけど。」
「そもそも、剣を抜かないどころか、魔力強化すら発動してない状態で8人も殴り倒したんですよ。発動させればあんな攻撃まったく受け付けなくなります。」
「あんな身体のどこにそんな力があるんだろうか?」
「分かりませんが、場数を踏んでいるのは間違いありませんな。戦い慣れしすぎていると感じます。」
「あれ?先輩を無視して他の選手同士で戦い始めた。」
「もう彼女を脅威ではないと感じた選手が後ろから攻撃したのでしょう。」
「なるほど、それなら先輩がここから逆転勝利してもそこまで不思議じゃなくなるのか。」
「恐れるべきは彼女の観察眼ですね。あんなに囲まれて攻撃されていたのに全体を見て行動していた。選手達は気づかなかったようですが、ここにいる何人かは気づいている。」
「何をだ?」
「ハッハッハ、後で彼女に聞いてみる事にしましょう。」
「なんだよ。」
試合は最後の2人の勝負がついた所をメイが漁夫の利を得た形で終了した。




