358話 確執
「先輩、怒ってるのか?」
「別に怒ってませんよ。ただ、あの人が気に入らないだけですよ。」
「それは侵攻に関わっていたからか?」
「私はアザーグリス将軍に戦士として敬意を表します。しかし、悪魔や魔族の力を使い侵攻をした事は、例え命令であったとしても気に入らないだけです。」
「その部下だったガルドも気に入らないって事か。」
「それにほぼ初対面の相手に剣を向ける人に何も思わないほど人ができていないので。」
「それは俺から言っておく。だから、その、機嫌を治してくれ。」
「私は怒っていませんよ。助けを求められたあの人がどう動くのか、観察しているだけです。ボールはすでに投げられています。」
「…」
「で、悪魔…メイ殿の様子はいかがですかな?」
「様子を見てると言っていたよ。どうしてそう喧嘩腰なんだよ。」
「ワシらの共通点はヘイミュート侵攻しかありません。ワシも彼女もそこに遺恨がある。」
「そんな何年も前のことを根に持つなよ。」
イガレスがそう言うとガルドは机を叩き心の激情を吐くように答えた。
「皇子、ヘイミュート辺境伯軍との戦いで命を落とした兵よりもあの悪魔に殺された兵の方が何倍も多いのですよ!」
「ガルド!先輩は悪魔ではない。お前は何を考えているんだ。」
「あの後、少女1人に壊滅させられた我々は愚弄され嘲笑されました。敗残の将であるワシらはそれを甘んじて受けるしかなかった。しかし、命を落とした兵を愚弄するのだけは許せなかった…」
「先輩の行為は戦争時において何も間違っていない。だが、お前の怒りは先輩に向けられるものではない。」
「分かっています。怒りの矛先が違うというのは…何度も何度も考えた。ですが、この怒りを何に向ければ良いのです!?帝国ですか!?そんな事をすれば唯一ワシに残った部下たちも失うことになってしまう…あの時、ワシはほとんどのものを失ってしまった。ワシはもう何も失いたくない…」
「俺はお前がなんでもできる器用な男だと思っていたよ。でも、お前は不器用だったんだな。自分の心すらも見えないとは、少し頭を冷やせ。俺を失望させないでくれ。」
イガレスが部屋から出て、独り言を呟く。
「おじさんが生きていても、お前に同じ事を言っただろう。これはおじさんが遺した試練だ。この試練を乗り越えた時、お前は真に信頼できる仲間になれるだろう。」




