36話 同類
公爵は執務室で優雅にワインを飲んでいた。
「君はあの時の小娘か、なぜここにいる?」
「王太子殿下の護衛兼メイドとして短期で雇ってもらったので。陛下からの出頭命令です。潔く命令に従ってください。」
「それは無理な話だと君が最も理解しているのではないかな?」
「従っていただけたなら楽だったのですが。」
ブンッ
バコーン!
「これは影?暗黒術ですか。」
「そうだとも。どうだ?貴様ほどの強者なら儂が飼ってやってもいい。」
「遠慮しておきますよ。本物の公爵はどうしたんですか?」
「ここにいるではないか。」
影が分離し、もう一つの顔が影から出てきた。
「融合していたのですね。」
「そうだ!儂がこの国の王となるためにこの魔族と融合したのだ!」
「愚かな。もういいです。あなたに聞きたいことは無くなりました。死んでください。」
「ずっと避けてばかりいるくせに何を言っているのだ。」
私は言霊を紡ぐ。
「壊れろ」
「何!影が崩れただと!」
「あなたを殺す事くらいいつでも出来ました。勝ったと思ってペラペラ話してもらってとても助かりました。」
「儂をバカにしやがって!死ね!」
「馬鹿の一つ覚えですか。影だけでなくあなたも壊してあげます。」
「黙れェ!」
「壊れろ」
「ぎ、ぎゃあああ!儂の腕が!なんで崩れた!」
「ほら、もっと抵抗してください。これだけではまだまだ満足できません。女性を満足させるのも殿方の役目でしょう?」
「ヒッ!もうやめてくれ!金ならいくらでもやるし、出頭命令にも従う!だから!」
「もう遅いんだよ。ここまでやってまだ分からないのか?」
「役に立たない奴だ。」
影が分離し、実体化した。融合を解いたようだ。
「ぎゃあああ!」
融合していたため、痛みが軽減され、生命力が強化されていた公爵は融合が解除された瞬間痛みでのたうち回った。この男はもうすぐ死ぬだろう。
「なぜだ!なぜ融合を解除した!」
「お前の利用価値が無くなったからだ。」
「何だと!」
「元々お前は我らの用が済めば殺すつもりだった。それが早まっただけだ。」
「そんな…。」
「話は終わりましたか?」
「待っていてくれて感謝するよ。お陰でこのクズの絶望の表情を見ることが出来たよ。」
「趣味が悪いですね。」
「そう言うなよ。お前は俺たちと同類だろう。」
ニヤリと笑いながら言った。
「あなた方と一緒にしないで頂きたいですね。」
「一緒さ。なんせ、このクズを追い詰めているとき、お前は笑っていた。」
「一緒にしないでもらえますか?」
「自分では気づいていなかったかのか?どうだ?我らと一緒に来ないか?」
「遠慮します。私には守りたいものが出来ましたので。」
「それは残念だ。」
両方が同時に戦闘態勢に入った。
もう少しだ、もう少しで罠にかかる。