344話 お礼
「最近暇ね。」
「そうだな。何も言ってこないから何もせずに契約期間が終わりそうだぜ。」
「暗部ってそんなに暇なの?」
「俺らが関わる程でもないって感じなんだろ。」
「ふーん。ま、何も無いなら無いで楽できるからいいんだけど。」
「カイト君、手紙だよ。」
辺境伯が手紙をカイトに渡す。
「おっさんじゃないか。久しぶりだな。誰からだ?...え?」
「どうしたの?」
「これ見てみろ。」
「...嘘、王太子からの手紙って、なんで?」
「今回の事で君たちは非常に良い働きをしたということでお礼をしたいと仰っていたよ。」
「王城に招待するって書いてあるけど、そういうのって色々準備とかいるんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。名目上は私の使用人として行くからね。」
「私も行かないといけないの?」
「当然だよ。ピーター君にも声を掛けておいてね。明後日の昼頃に迎えに来るから準備しといてね。」
「結構急ね。」
「ピーターには予備の服着せればいいか。俺と体格変わらないし。」
「それじゃあね。」
2日後
「ホントに俺も行くの?」
「どうどうとしてたらいいんだよ。矢面に立つのは俺らじゃなくておっさんだからな。」
「辺境伯様をおっさんって言うの色々ヤバくない?」
「人前では言わないさ。」
雑談をしていると屋敷の前に馬車が停り、その中から辺境伯が出てきた。
「みんな揃ってるね。じゃあ出発しようか。」
王城に着くと辺境伯は3人を部屋に案内し、どこかに行ってしまった。
「ちょっと待っててね。」
しばらくすると帰ってきて、
「準備が出来たみたいだから、ついてきて。」
辺境伯の後について歩いていくと、窓の外から修練場が見えた。
「あれは、ユリエスじゃないか。」
「結構離れてるのによく見えるね。色々思う所があったみたいで、よく訓練しているよ。」
「その隣にいるのは魔法士か。新しいパーティメンバーか?」
「そうなんだよ。勇者君の幼なじみらしくてね。息のあった強力な攻撃ができるらしいよ。」
「なるほど。で、その後ろにいるのが聖女か。清楚な美人さんだな。」
「鼻の下伸ばすな。」
「伸ばしてないわ。」
「もう行くよ。殿下を待たせているからね。」
「それはすまねえな。」
豪華な扉がある部屋に案内され、中に入ると王太子と第2王子が待っていた。
「待っていたよ。君たちのおかげで予想以上の成果を上げることができたんだ。」
「君たちが凄腕の戦士だとは見えないが、やはり人は見た目で判断すべきではないね。」
「メイ嬢の判断に間違いはなかったという事さ。さて、1つ相談なんだが、暗部に入るつもりは無いかな?」
「すまないが、それは出来ない。嬢ちゃんには恩があるし、何より嬢ちゃんと相対する可能性は少しでも避けたい。」
「私だって彼女と戦う気は無いが、別組織に移るということはその分利害によっては敵対する事も無いわけじゃないからね。」
「そうだ。だから、申し訳ないが断らせてもらう。」
「そう言うと思ったよ。それじゃあ、勧誘は諦めるとしよう。何か欲しい物はあるかな?それが君たちに対してのお礼だよ。」
「特別な物はいらねえよ。俺たちは指示にしたがっただけだ。招待されたから来たが、何かを貰うつもりは元々無かった。」
「面白いね。なら、貸し1つという事にしよう。何か困った事があれば私に相談するといい。損得無しに全力で対応するとしよう。」
「そんなすごい物を貰う訳にはいかないと言いたいが、断り続けるのも殿下に恥をかかせるだけだ。だから、ありがたくその権利をいただく事にする。」
「存分に頼ってくれてもいいからね。」
こうして、2ヶ月の契約期間は終わった。
王太子との面識を得るという想像もしていない事が起こったが、気にしない事にした。




