329話 話には聞いていた
バレルを出たメイとイガレスは王国までの道を歩いていた。
「もっと速く移動できる手段があるのに…」
「君に任せると酷い目に遭いそうだから絶対に遠慮しておく。それはそれとして他の任務はしなくて良かったのか?」
「あなたを連れてできる訳ないでしょう。あなたの保護を優先します。」
「そうか。俺のせいか。」
「別にあなたのせいではありませんよ。少し予定が狂っただけです。」
「本当はどれくらいの間滞在するつもりだったんだ?」
「2週間ほどです。 」
「短いな!それで何とかできるのか?」
「本当は下見程度で終わらせるつもりだったんですよね。」
「なるほど」
2人が歩いていると、馬に乗った騎士の一行が近づいてきた。
「おい、そこの少年。フードをとって顔を見せろ。」
「なんですか急に。弟が何をしたというんですか。」
「邪魔をするな。子どもでも邪魔をするなら逮捕するぞ。」
「そんな事おかしいです!」
騎士はメイを押し退けイガレスのフードをとる。
「!やはりイガレス皇子!」
「チッ!逃げるぞ!」
「待て!」
イガレスは走って逃げようとするが、馬に乗った騎士の方が速く追いつかれそうになってしまう。
「どうするんだ!」
「めんどうですし、殺してしまいますか。」
「そんな軽々と、相手は鎧を着ているんだぞ!」
「なら、どうします?」
「分かったよ!俺も手伝うからやってくれ!」
「私一人で十分です。」
メイは立ち止まり、馬ごと騎士を両断する。
「何!貴様!」
「帝国では強者が出世すると聞きましたが、この程度ですか。」
騎士達は馬で突撃を行う。
相手が生身である以上馬で激突するだけで戦闘不能にできるからだ。
「浅はかですね。」
メイは軽やかにステップを踏み、騎士達の間を駆け抜ける。
騎士の側を通る度に剣が太陽の光を鈍く反射する。
「こんなものですか。」
突撃を敢行した騎士は全員が一刀のもとに両断されており、メイは返り血を浴びて全身が紅く染まっていた。
「そ、そんな…」
「クソ!お前は救援を呼ぶんだ!俺達は時間を稼ぐ!行くぞ!」
騎士達はメイを取り囲んで時間を稼ぐ。
決死の覚悟で時間稼ぎを行う騎士を見てメイは
「想いの強さで勝てるのならどんなにいいか。痛いのは一瞬ですよ。風魔法«首狩り»」
メイが剣を横に一回転させると風が起こり、取り囲んでいた騎士達の首がゴトリと落ちる。
「次」
逃げた騎士に狙いを定めたメイは一瞬で移動し、剣で両断する。
「ふぅ、これで一仕事完了ですね。早く離れなければ」
「強すぎでしょ。ん?おじさんが言ってた少女ってもしかして君の事?」
「将軍はなんと言っていたのですか?」
「『我輩と戦ったあの少女はとても強かった。もし、我輩が死ぬような事があればその少女を頼りなさい。彼女は助けを求めた者を足蹴にするような者ではない。』と。名前もその時に言っていたはずだったのだが、何年も前の事だったから忘れていた。」
「そうですね。将軍が言っているその少女は私でしょう。」
「四神将に勝ったのであればその強さも納得だな。騎士が何人束になろうと負ける事は無い。」
「そんな事はどうでもいいです。先を急ぎましょう。」
「あ、ああ」
先を急ぐためにイガレスを急かすメイであった。




