325話 昨日の事のように思い出す
タムリは部下を引き連れ酒場を貸し切っていた。
「いつもドケチなタムリさんにしては珍しいッスね。」
「お前、ケチじゃねえよ。倹約家だと言え。まあ、今日はあんな事があった事だし、パーッとやるのもいいかと思ったんだが、マサはいらないみたいだな。」
「あー!嘘ッス!タムリさんはめちゃくちゃ優しいッス!」
「ったく、現金なヤツだな。」
「そう言えば、組と姐さんが組むことになったのはどうしてなんスか?」
「ん?それは1年ちょっと前の事だ。あの時、依頼主に裏切られてな。口封じのためにその場にいた全員が殺されそうになった時だったな。」
1年前
「クソ!ヤツら裏切りやかって!どうしますボス。」
「俺を置いて先に行け…とでも言ってみるか?」
「周りは包囲されてるんですよ。バラバラに逃げても各個撃破されるだけです。」
「それもそうだな…」
「ゼファーソンさん!あそこ!」
「俺の事はボスと言えって何度言ったらって…なんでこんな所にガキがいるんだ!?おいガキ、ここは危ないからすぐに帰りな。」
「中々絶体絶命なご様子。もし、この場を切り抜けられるアイテムがあるとするなら買いますか?」
「そりゃ、買うさ。でも、そんな物どこにあるってんだ?」
「この契約書にサインしてください。そうすればあなた方の命を保証しましょう。」
「何言ってんだテメェ!この忙しい時に!」
「待て!この紋章、王家の紋章じゃねえか。」
「私は王太子殿下の代理で来ています。なので、私の言葉は王太子殿下の言葉です。」
「良いだろう。その提案乗ってやるぜ。」
「本当に良いんですかボス!怪しすぎます!」
「俺らが生き残るにはこうするしかない!…嘘じゃないんだろうな。」
「ええ、私は出来ないことは提案しません。」
「1つ聞かせてくれ。どうして俺たちを選んだ。外にいる連中でも良かったはずだ。」
「あなた方が死にそうだったからです。相手の足元を見るのは交渉の基本でしょう?」
「こりゃやられたな。この場は仕組まれてたってことか?」
「私は情報を仕入れたにすぎません。私がこの場に来なくとも連中はあなた方を裏切ったでしょう。それと、護身用の魔道具です。自分の足を撃たないようにしてくださいね。」
「これは…!こんな物を渡して俺たちが寝返ると思わないのか?」
「では、見ていると良いでしょう。私に楯突いた愚か者がどうなるかを。…踏み込んできましたね。ちょうどいい。」
現在
「あん時の姐さんはヤバかったぜ。姐さんに斬られたヤツは跡形も残さずに消えるんだ。しかも、腰に下げた剣は抜かずにそこら辺に落ちていた木の棒使ってたんだぜ?反抗する気も起きねえよ。」
「そんな事があったんスね。姐さんって何者なんでしょうか?」
「どんなに調べても田舎の村で生まれた以外何も分からん。それにクギを刺されちまったからな。それ以来調べてない。」
「とにかく、人は見かけによらないと言う事ッスね。」
「そういうことだ。」




